アンリ・ルソーやグランマ・モーゼスに代表される「素朴派」の画家たち。そのなかでも、ガスも電気も水道もない小さな家で、絵を描き続けた一人の画家がカナダにいたことをご存知だろうか?
その名はモード・ルイス。田舎暮らしの日常をテーマに、動物や自然の美しさを描き続けた画家だ。
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モードは1903年にサウス・オハイオで生まれ、若年性関節リウマチによって手足が不自由ながらも、素朴な絵を描き続けた。その実話をもとにした映画『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』が2018年3月より公開される。
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若くして両親を亡くし、叔母の家で暮らしていたモードはその生活に不満を覚え、家出同然で独立。その後の生活をともにしたのが、家政婦募集の張り紙を通じて出会った魚の小売業、エベレット・ルイスだった。周囲に何もない小さな家で、ときにぶつかり合いながらもじょじょに愛を育んでいく二人。転機となったのは、エベレットが魚を売る際にモードの描いたポストカードを一緒に売り出したことだった。
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当初は1枚25セントで販売されていたポストカード。しかし、これが評判を呼び、1964年にカナダの週刊誌『Star Weekly』で紹介されるや、モードの名はカナダ中に知れ渡り、翌65年にはカナダ国営放送CBC のドキュメンタリー番組「Telescope」で取り上げられ、アメリカのニクソン大統領からも絵の依頼がくるほどになった(モードの絵はホワイトハウスに2枚飾られていた)。
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夫婦のラブストーリーでありながら、一人の絵描きが「画家」としての道を切り拓いてく物語でもある本作。
モードを演じたのは『ブルージャス ミン』(2013)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたサリー・ホーキンス。絵本作家の両親を持つホーキンスは、本作のために素朴派画家の絵画クラスに数ヶ月間通ったという。実際のモードの画風を忠実に再現し、数多くの絵が作中で描かれていく様子は本作のハイライトと言えるだろう。
なお、舞台となった二人の家(モードが内壁にも絵を描いたことから「ペインテッドハウス」と呼ばれる)は1984年にノバスコシア美術館へ移築されているが、今回のために忠実に再建。細かな美術セットにも注目したい。
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