美術手帖 2018年1月号
「Editor's note」

12月16日発売の『美術手帖』 2018年1月号の特集は「バイオ・アート」。編集長・岩渕貞哉による「Editor’s note」をお届けします。

『美術手帖』2018年1月号より

 今号は「バイオ・アート」特集をお送りします。バイオ・アートと聞いて、あなたはどんなものをイメージするだろうか。

 バイオ・アートとは、バイオ、つまり「生命」をメディアとしたアートとまずは言える。クローン羊「ドリー」の誕生によって社会的注目を集めた20世紀末から20年のあいだ、バイオ・テクノロジーは急速な発展を遂げる。遺伝子を操作する技術を開発し、コンピュータで人工細胞をつくり、ついに私たち人類は、「生命」を人工的に生み出し、操作する「神の手」を実質的に手に入れてしまったのだ。では、「ヒトのクローン」が技術的に可能だとして、それを生み出すことは社会的に容認できるだろうか。

 ここまでくると、科学の技術的な話を超えて、倫理的に許されるのかどうか、また生命とはなにか? 人間とは? アイデンティティとは?といった、哲学的・人文的な価値判断が要請されてくる。それが近年、アートからの生命へのアプローチであるバイオ・アートに注目集まり、その役割が期待されている所以なのだろう。サイエンスやテクノロジーは、人間の概念を拡張し、それは人間すらも超えていくような未来への可能性を持っており、いっぽう、アートは、人間や生命の根源に深く降りていくような、またその限界を指し示していものと措定できる。

 しかし、こうした一見クリアな解釈は疑ってかかるべきかもしれない。実際、この特集で紹介されているサイエンティストとアーティストの活動見ていくと、科学と芸術の境界はそれほどはっきりしたものではなく、相互に入り組んだ関係になっていることがわかる。双方において、「私たちにはなにができるか」ではなく(と同時に)、「私たちはなにを望むのか」、そして「私たちはなにになりたいか」という問いがより重要になってきているのだ。

 特集のサブタイトルは、「アートは生命の未来を更新するのか?」とした。しかし、なにをもって「生命」とするのか、またなにをもって「更新」とするのか、それこそが問われている。そして、最後にはサイエンティストとアーティストの実践によって投げかけられた複数の生命のあり方から、私たち個々人がなにを選び取っていくか、未来はそこにかけられている。

2017.12
編集長 岩渕貞哉

『美術手帖』2018年1月号「Editor’s note」より)

編集部

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