2004年のアテネオリンピック開閉会式の演出を手がけたギリシャ出身の振付家、ディミトリス・パパイオアヌー。その最新作『TRANSVERSE ORIENTATION(トランスヴァース・オリエンテーション)』が、彩の国さいたま芸術劇場(7月28日~31日)とロームシアター京都(8月10日、11日)で上演される。
パパイオアヌーは1964年アテネ生まれ。ギリシャの伝説的美術家ヤニス・ツァロウチスのもとで学んだあと、同国の美術学校・アテネ美術学校で学ぶ。画家やマンガ作家としてのキャリアを経て、美術家として活動を始め、舞台芸術のアーティストとして知られるようになる。ニューヨークでダンスを学んだあと、86年にエダフォス・ダンス・シアターを設立。2009年にピナ・バウシュ亡き後のヴッパタール舞踊団から初のゲスト振付家に指名され、大きな話題を呼んでいる。
そんなパパイオアヌーは、2019年に初来日となった作品『THE GREAT TAMER』を彩の国さいたま芸術劇場とロームシアター京都で上演し、観客に鮮烈な印象を残した。今回の新作は、20年にフランスのアヴィニョン演劇祭のオープニング・プログラムとして予定されていた作品で、日本でも同年4月に上演予定だったが、コロナ禍の影響で延期せざるを得なかった。昨年6月にようやくフランスのリヨン・ダンス・ビエンナーレで初演され、いまは世界各地で巡回されている。
タイトルの「Transverse Orientation」は、蛾などの昆虫が、月などの遠方の光源に対して一定の角度を保ちながら飛ぶ感覚反応のことを指す。昆虫は光源が近距離の人工の光となると、飛翔方向の角度が変化してしまうという。
本作には、点滅する光、ユーモラスに戯れる機械仕掛けのような黒い人形、雄牛、男たち、聖母あるいはヴィーナスなどが登場。ピナ・バウシュの世界を想起させる女性を演じるヴッパタール舞踊団の元ダンサーであるブレアンナ・オマラをはじめとした8人のパフォーマーが、その身体でパパイオアヌーの精密な世界を描き、観る者をライブ・ミュージアムに誘うかのような体験が繰り広げられる。
強烈な印象を残すヴィジュアルにより、世界のアートシーンで存在感が際立つパパイオアヌー。その最新作が国内で体感できる機会をお見逃しなく。