十和田市現代美術館は、アーティスト 目[mé]が十和田市街の一軒家をホワイトキューブの空間へと改築した作品「space」を、同美術館が若手アーティストの作品を紹介する「サテライト会場」として運用することに決定。7月1日からこの会場で行われる最初の展示作家として選ばれたのが、大岩雄典だ。
大岩雄典は1993年埼玉県生まれ、現在東京藝術大学大学院映像研究科博士後期課程に在籍中の美術家。多層な空間と物語やせりふといった言葉を中心とするインスタレーションの制作に加え、研究、執筆、キュレーションなどその活動は多岐にわたる。6月7日に発売された『美術手帖 7月号』においても、アーティスト小寺創太のインタビュー記事にて聞き手・文を務めた。
近作には、カードゲーム・インスタレーション《刑吏たち伴奏たち》(2022)、作家やギャラリー同士の経済関係をジュースに変換した《margin reception》(2021)、ノイズに苛まれる話芸としての「漫才」に着目した《バカンス》(2020)などがある。
大岩はこれまで言語論や言語哲学、フィクション研究、ゲームスタディーズなどの領域に関心を持ち、戯曲、漫才、ホラーといった多様な言葉の様式を空間に組み込む(install)ことで、固有の時間感覚をもつ「空間芸術」として提示してきた。大岩はまた、「空間」をたんなる形態ととらえるのではなく、ゲーム的可能性、他人との親近感、時間との共働、契約や欲望の関係など、存在しうる多様な相の織り合わせと考え、インスタレーション・アートの形式を再解釈してきた。
ここにはまた、私たちが他者や物質、ときに観客や作者といかに「居合わせ(contemporary)」
なくてよいのかという主題が潜んでもいる。大岩によってつくられる観客に不安を感じさせるほど緻密な動線と伏線を内包する空間は、大掛かりな装置の作品や華やかなインスタレーション・ アートとは一線を画した刺激性を含むものになっている。
大岩にとって、美術館では初の作品発表の機会となる本展。展示に先立って大岩は、会場であり目[mé]の作品でもある「space」と周辺の十和田市街の空間が持つ性質を注意深く観察したという。そして、これまでの関心であった ドラマ(劇)、鑑賞者の行為や動線、展覧会の制度との一種の「地口」を見出した。言葉遊びのような空間の操作は、展示会場である「space」から十和田市街へ投影され、観客のパラノイア的な想像を掻き立てるだろう。
目に映る光景に着目し、元あった空間の見え方を一変させる目[mé]と、言葉を利用して空間体験を「修飾」する大岩。両者の作品は時に一見似たような外観を持つが、その本質は大きく異なる。目[mé]が「space」で設定した状況に大岩がいかに応答するかは本展「渦中のP」の見どころのひとつになっている。
本展は十和田市現代美術館「サテライト会場」初の展示であり、大岩の新作発表も行われる注目の展示。会期初日の7月1日13:00~14:00には、十和田市現代美術館のカフェでアーティスト・トークも予定されている。