『美術手帖』8月号「ゲーム×アート」特集では、ゲームの技術を取り入れた美術作品から、ゲームにおける芸術性についての議論までを紹介。今回のトークイベントでは、特集の見取り図となる企画「ゲーム×アートを考えるためのキーワード解説」の構成を担当した、メディア・アーティストとしてゲームアートの制作・研究を行う谷口暁彦、ゲーム研究者・美学者として活動する松永伸司、ゲームの物語性を研究テーマのひとつとするアーティストの大岩雄典が登壇し、それぞれの視点で両領域の関わりを掘り下げた。
ゲームとアートの関係
まず谷口が、イタリアのゲーム研究者マテオ・ビタンティの論を参照しながら、ヴィデオゲームから制作される映画「マシニマ」や、インタラクティブなアニメーションとゲームの関わりをたどり、「ゲームアート」と呼ばれるジャンルとヴィデオアートのつながりを解説。
また、ゲームにおける表現様式を示す「アートワーク」など、「アート」という語の多義性に議論が及ぶと、かつて演劇などを指した「総合芸術」という概念は、現代においてはゲームに当てはまるのではないか、と指摘した。
松永は、ゲームを展示する難しさを考察した特集での寄稿をきっかけに、『あつまれ どうぶつの森』を例にあげ、「ゲーム内展示」が美術館を訪れる経験そのものをシミュレートする面に着目。コロナ禍でそれぞれバーチャル空間での展示を試みた谷口と大岩からは、リアルとは異なる展覧会と作品の関係の在り方や、展示の再現に向いているゲームの特性も挙げられた。
続いて、話題は特集で取り上げた「インゲームフォトグラフィ」に。大岩は、ここにおける「フォトグラフィ」という言葉が、写真の数多い技術のうちでも、結像やその定着を表していることに注目。「インゲーム日光写真」のアイデアや『ポケモンスナップ』における例を挙げながら、ゲーム内での写真表現の可能性を示唆した。松永は、ゲームにおいてしばしば用いられる現実世界の「シミュレーション」とは、ものの一部を抽出する営みであり、そこで何を取捨選択・再現するかが問われると指摘した。
3人が注目する作品
後半では、それぞれがアートや作品との関わりから注目する作品を紹介。松永は、特集でインタビュー翻訳を担当したジェイソン・ローラーの代表作『Passage』を実際にプレイ。エンターテインメント要素を抑えることでテーマの表現に特化する、アートゲームの特徴を解説した。
大岩は、コンピュータを模したインターフェイスで事件の操作資料を検索していく推理ゲーム『Her Story』、3日後に滅亡する世界を舞台にした『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』を紹介。それぞれ、データベースから情報が結び合わさりストーリーが浮かび上がる仕組みや、ひとつの世界の同じ時間を何度もリプレイできる構造が、ゲームの物語構造そのものの比喩になっていると話した。
谷口は、フェミニズムの文脈でも賛否両論を呼んだ『トゥームレイダー』で女性主人公ララ・クロフトが死ぬシーンを集めたペギー・アハウェッシュ《She Puppet》、『グランド・セフト・オート』内でアメリカ国内で銃殺された人数をシミュレートするジョゼフ・デラップ《エレジー:GTA USA 銃 殺人》を挙げ、《やわらかなあそび》といった自身の作品にもつながる、ゲーム内での死の表現について考察。死の表現をシミュレーションし、反復してみせるゲームは、かえって現実における死の一回性や悲劇性を浮かび上がらせると語った。
また参加者からも、ゲームスタディーズにおける遊び、音ゲーとアート、暴力的ゲームと現実の暴力とのつながりについてなど、多くの質問が寄せられ、多様な角度からゲームとアートの関係や可能性を考えるイベントとなった。質疑応答を含む記録映像は、9月30日までアーカイブ配信で見ることができる。