戦後復興期から1980年まで活躍した建築家・吉阪隆正(1917〜1980)。コンクリートによる彫塑的な造形を持った独特の建築で知られている吉阪の活動の全体像に迫る展覧会「吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる」が、東京都現代美術館で開催される。会期は3月19日〜6月19日。
吉阪は「考現学」の創始者として知られる今和次郎や、近代建築の巨匠ル・コルビュジエに師事し、人工土地の上に住む住宅「吉阪自邸」、文部大臣芸術選奨(美術)を受賞した「ヴェネチア・ビエンナーレ日本館」、日本建築学会賞を受賞した「アテネ・フランセ」、東京都選定歴史的建造物に指定された 「大学セミナー・ハウス本館」などを手がけた。
いっぽうで建築だけにはおさまらない領域横断的な活動に取り組み、地球を駆け巡ったその行動力から、建築界随一のコスモポリタンと評されてきた。本展のサブタイトルにある「ひげから地球へ、パノラみる」は、吉阪による造 語を組み合わせたものだ。地域や時代を超えて見渡すことなどを意味する「パノラみる」と、自身の表象であり等身大のスケールとしての「ひげ」、そして個から地球規模への活動の広がり、という意味が込められた。
展覧会は7章構成。吉阪隆正の生涯と、建築を中心とした領域横断的な活動を「生活論(人間と住居)」「造形論(環境と造形)」「集住論(集住とすがた)」「游行論(行動と思索)」の4群による連環としてとらえ、時代やテーマによって分類する。
また、吉阪は戦後の焼け跡に自らの住まいとして建てたバラック住宅から、個人住宅や公共建築、極地での生活を考えた山岳建築、地域計画まで、その建築のスケールを等身大から地球規模へと拡大していった。これらの建築の仕事はひとりで行ったわけではなく、設計アトリエであるU研究室(63年に吉阪研究室から改称)を創設し、「不連続統一体(DISCONTINUOUSUNITY)」の考え方に集まった所員や、教鞭を執った大学院の学生らとともにディスカッションをしながら集団で建築をつくりあげていった。本展では30の建築とプ ロジェクトを紹介しながら、建築によって吉阪が目指したものとは何か、社会へのメッセージをひも解く。
吉阪の関連資料は、2015年に文化庁国立近現代建築資料館に「吉阪隆正+U研究室建築設計資料」が、17年には早稲田大学に吉阪の日記や原稿、ノート、書類、写真といった個人資料が収蔵された。こうしたアーカイブ化された資料も、会場ではまとまったかたちで展示される。
吉阪の活動の全体像にふれる、公立美術館では初の展覧会。その思想や思考に迫る貴重な機会となりそうだ。