古代から現代までの幅広い作品を通じ、歴史においてクィアの生活や物語がいかに芸術のなかで表現されてきたのかを探る展覧会「Queer(クィア)」が、12月10日よりオーストラリア・メルボルンのビクトリア国立美術館(NGV)で開催される。
クィアとは、元来「風変わりな・奇妙な」を表す言葉で、同性愛者への侮蔑語でもあったが、現在は性的少数者全体を包括する用語として肯定的な意味で使われることが多い。本展では、現代の研究、解釈、分析をもとに、抑圧や偏見、差別によって過去には目にすることができなかった物語を読み解く。
NGVの5つのギャラリースペースを使って、絵画、ドローイング、写真、装飾美術、ファッション、テキスタイル、ビデオ、彫刻、デザイン、建築など、10以上のテーマ別にクィアの物語に関連する作品を紹介。同館のコレクションから、時代や文化を超えて300点以上の作品を展示予定だ。
出品作品の多くは、クィアであることを自覚しているアーティストよるもの、あるいはそうした自覚が難しかった時代に生きたアーティストによるもの。また、クィアのアーティストによるものではないが、クィアの歴史と結びついている作品もある。
例えば、アルブレヒト・デューラーの《木に結ばれた聖セバスチャン》(1501)は、キリスト教の殉教者・聖セバスチャンを描いた作品。ルネサンス期以降、聖セバスチャンは美しい青年として描かれることが多くなり、その物語にエロティックな解釈も生まれた。
また、戦士である友人のパトロクロスを恋人にしたとされるギリシャの英雄・アキレウスを描いた紀元前540年の花瓶や、恋人で30年近くのパートナーであるレイチェル・ダンを描いたアグネス・グッドサーの肖像画《The letter》(1926)、メルボルンでのゲイ解放運動中のカップルが誇らしげに、そして勇気を持って愛を祝う姿を描いたポンチ・ハークスの写真《No title (Two women embracing, 'Glad to be gay')》(1973)なども本展のハイライト作品だ。
同館の館長であるトニー・エルウッド・AMは、本展について次のようにコメントしている。「オーストラリアの美術機関でこのような規模とニュアンスのクィアをテーマにした展覧会が開催されたことはなかった。『Queer』は、NGVコレクションに光を当て、作品が語るべきクィアな物語を検証し、明らかにする。愛されている作品からあまり知られていない作品まで、幅広いセレクションの作品を集めたこの展覧会は、観客にクィアの概念や物語を、驚きと示唆に富んだ方法で解釈する機会を提供してくれるだろう」。