1942年、広島に生まれた殿敷侃(とのしき・ただし)は、29歳で画家を志し、本格的に作家活動を開始。70年代からは山口県長門市に移住し、両親と自身の被爆体験に向き合い、独学で始めた絵画や版画作品での細密描写で注目を集めた。
その後80年代に入ると作風を大きく展開させ、廃棄物や漂流物を素材とした大規模なインスタレーションを制作。現代の消費社会や環境破壊への問題意識に基づいた作品が世界で評価され、国内外の展覧会で多数の作品を発表し続けるも、闘病の末に50歳でこの世を去った。近年、社会的なテーマへの取り組みや、地域住民との協働による制作といった観点から、殿敷の作品は再評価が高まっている。
本展では、めまぐるしく作風を変え、多様な展開を遂げた変遷をたどりつつ、作家の約30年にわたる活動を包括的に振り返る。現存しないインスタレーション作品は、記録や関連資料を通じて紹介。没後25年を迎える殿敷の故郷で、その全貌を明らかにする。