火薬を用いた作品制作を行うことで知られ、2008年の北京オリンピック開会式で打ち上げ花火による演出も手がけたアーティスト・蔡國強。その大規模な個展「Odyssey and Homecoming」が、北京・故宮博物院で開幕した。
2017年、蔡は「西洋美術史をめぐるひとりの旅」と称し、プラド美術館(マドリード)、プーシキン美術館(モスクワ)、ウフィツィ美術館(フィレンツェ)など、世界でもっとも重要な美術館のコレクションと対話しながら作品を制作。この「旅」の最高潮となるのが、今回の故宮博物院での展覧会だ。
故宮博物院が位置する紫禁城創建600年の節目の年を記念して行われた本展は、コロンビア大学の歴史と美術史教授であるサイモン・シャーマがキュレーションを担当。上述の作品シリーズに加え、故宮博物院のコレクションからインスピレーションを得た新作など、約180点の作品を展示している。
そんななかでもっとも注目されるのは、本展最後の展示室に登場した作品《Sleepwalking in the Forbidden City》だ。蔡が故郷・泉州の職人とともに制作した紫禁城の大規模な雪花石膏模型、火薬のドローイング、そしてそれらを融合させたVR(仮想現実)映像で構成された本作は、歴史的に紫禁城で行われていた旧正月を祝う花火大会から触発されたもの。VR技術で芸術作品の鑑賞体験の向上に取り組む「HTC VIVE Arts」と提携してつくられたVR映像を通じ、空間と時間を絡めとり、現実世界と仮想世界のあいだを往来する。
この5分間のVR映像では、鑑賞者は金、銀、赤の花火から始まり、4章にわたって繰り広げられる儀式を目の当たりにする。色とりどりの煙の火花から、紫禁城の屋根の上に広がる日の出の景色へと移り、最後には色とりどりの煙と顔料が散って空に落ち、立体的な火薬画へと変貌していく。
本作について蔡は、「『天円地方』や五行思想などに触発されたもので、中国の伝統的な美意識と紫禁城のなかに感じられる『天下を擁する』という大胆な精神を浮き彫りにした」と語る。また、今回で初めて使ったVR技術について蔡はこう続ける。「ハイテクでつくられた作品に共通する洗練された完璧な美学を揺るがし、生の感情を呼び起こす能力を探求したいと思っている。最終的には、臨場感あふれる360度の花火を通して、鑑賞者がより広い空間と時間で対話できるようなチャンネルをつくりたいと思う」。