東京国立博物館、文化財活用センター、KDDI株式会社は、第5世代の移動通信システム「5G」や、AR(拡張現実)といった先端技術を活用し、文化財の魅力を引き出し新たな鑑賞体験を提案する共同研究プロジェクトを2019年9月に発足させた。
このプロジェクトの第1弾として、東京・上野の東京国立博物館 法隆寺宝物館で開催される展示が「5Gで文化財 国宝『聖徳太子絵伝』ARでたどる聖徳太子の生涯」だ。会期は9月29日〜10月25日。

《聖徳太子絵伝》 は1069年に絵師・秦致貞によって描かれた。聖徳太子の「36人の子どもの話を記憶」「憲法十七条をつくる」といったエピソードが10面に描かれた国宝で、東京国立博物館が所蔵している。同作は経年による傷みもあり、作品保存の観点から年に1ヶ月ほどの限られた期間のみ展示されてきた。
今回の展示は、この《聖徳太子絵伝》の魅力を、一面あたり18億画素の高精細画像と5Gの高速大容量通信技術、ARを組み合わせることで、インタラクティブに幅広い人々へと伝えることを目的としている。
会場では、《聖徳太子絵伝》複製画のパネルが、かつて法隆寺の絵殿で同作が展示されていたときと同じコの字型に設置されている。貸与されるARグラス「NrealLight」を着用してこの複製画を見ることで、描かれている代表的な15のエピソードについて、解説とともに復元された図像が動くアニメーションを見ることができる。


これらのアニメーションは、東博の研究員の監修のもと制作されている。同館の学芸研究部調査研究課工芸室の主任研究員である三田覚之によれば、剥落が多く何が描かれているのか判別できない箇所も多い各図像を、物語の文脈を踏まえながら専門的な知見によって線の補足や彩色を施し、アニメーションによってよりわかりやすく伝わるものにしたという。


また、ARグラスと同様に「魔法のルーペ」と称される5Gのスマートフォンも貸与される。このスマートフォンを複製画パネルにかざせば、画面に高精細の画像がパネルと重なるかたちで鑑賞することが可能。さらに、画像に表示された58のエピソードから任意のものを選択すると、解説とナレーションによりさらに細かい絵伝の知識を得ることができる。

この「魔法のルーペ」は、18億画素の高精細かつ大容量の画像を、5G回線によってスムーズに拡大縮小することが可能。肉眼では見ることが難しい詳細なディテールの鑑賞が実現した。
5GやARといった技術を活用することで、かつて法隆寺の絵殿で、僧侶が《聖徳太子絵伝》の図像を指し示しながら聖徳太子の物語を人々に説いたのと近似する体験を、最新の5G技術により味わうことができる挑戦的な展示となっている。
なお、会場でコンテンツの体験をするためには、東京国立博物館 総合文化展観覧券と、コンテンツ体験の双方で、オンラインによる日時指定券の予約が必要。詳細は展示のウェブサイトを確認してほしい。