私たちはいまどこにいて、これからどこに行くのか。この根源的な問いを、もっとも身近な環境変化ともいえる「衣服」に焦点を当てて考えてみたい。
「ファッション イン ジャパン 1945-2020ー流行と社会」は、日本のファッション史の変遷を社会的事象や背景と絡めながら振り返るもの。75年という長いスパンで日本のファッション史をたどる世界初の大回顧展となる。主な出品デザイナー、ブランドは、田中千代、杉野芳子、伊東茂平、桑沢洋子、森英恵、VAN、BIGI、NICOLE、MILK、三宅一生、KENZO、Kansai Yamamoto、Jun、Ropé、PINK HOUSE、Yukiko Hanai、COMME des GARÇONS、JUNKO SHIMADA、JUNKO KOSHINO、A BATHING APE®、UNDERCOVER、 BEAMS、UNIQLO、 Hysteric Glamour、ALBA ROSA、BABY, 、 minä perhonen、THEATRE PRODUCTS、mintdesigns、 SOMARTA、THERIACA、途中でやめる、matohu、Mame Kurogouchi、sacai、 FUMITO GANRYU、KEISUKEYOSHIDA、AKIKOAOKI、PUGMENT、YUIMA NAKAZATO、ANREALAGE、 writtenafterwardsほか。
明治期に洋装が取り入れられるようになって以来、日本人が生み出した装いの文化は、独自の解釈と展開で世界に注目されてきた。本展では、こうして日本のファッション界において豊かな表現を生み出すきっかけとなった明治期以降の社会状況や流行を発端に、戦後から現在に至るまでの日本のファッションを包括的に紹介。とくに戦後の日本におけるユニークな装いの軌跡を、デザイナーサイドと消費者サイドの双方向からとらえ、新聞や雑誌、広告など各時代を象徴するメディアも参照しながら概観する試みだ。
言論の自由がなく、人々の自由への渇望が高まっていた終戦後の日本。当時の人々は、物資が少ない状況下にありながら限られた物資を材料に更生服やもんぺををつくり、自分なりの着こなしを楽しんでいたという。若者へのおしゃれを指南するものとして、『美しい暮しの手帖』や『それいゆ』といった洋裁雑誌やスタイルブックが創刊されたのも同時期だ。これを機に、洋裁学校で洋服の仕立てを習うことがブームとなり、加えて50年代後半に映画が黄金期を迎えたことが、洋服の普及を決定づけたという。本展では、後者においては森英恵によるアロハシャツや「真知子巻き」などを挙げる。
60年代に入り、景気が上向きに推移すると、衣服を「つくる」時代から「買う」時代へと変化。明るいカラーリングのアイテムやミニスカート、濃いアイメイクが流行する。そして「TD6(TOP DESIGNER 6)」をはじめとする日本人デザイナーが話題を集めた70年代を過ぎると、80年代には、ついにコムデギャルソンやヨウジヤマモトが世界の頂点に立ち、日本発のファッションが一層熱気を帯びた。
バブル崩壊後は、キャットストリートを歩く「裏原系」と呼ばれる若者や、渋谷を中心とする女子高生ブームなど、街からの流行が多く誕生。90年代後半には、ストリートスナップ専門誌『FRUiTS』ほか、対象を細分化した雑誌が続々と創刊され、これらは2000年から10年代に、日本のファッションが「kawaii」カルチャーとして世界に認識される土台となった。そして11年の東日本大震災など多くの災害に見舞われた、先行き不透明な今日の日本では、サスティナブルな未来を求めて、エシカルファッションや丁寧な暮らしへの意識が高まっている。
このように独自の展開を見せてきた日本のファッションシーン。現在はインターネットでいつ・どこでも手軽に衣類を購入でき、実感が薄れるいっぽうでその消費サイクルは加速している。本展は、日本のファッション史をたどると同時に、未来にどのようなスタイルが生まれてくるのか、見る者に展望を与える展覧会となっている。本展を担当する同館の特定研究員、小野寺奈津は「画像検索をかければ、いくらでも作品を見ることができてしまうネット社会だからこそ、ぜひ実物を見て体感してほしい」と話す。