抽象画だけでなく、子供向けの絵本でも知られる元永定正(1922~2011)。1980~85年に制作された絵画からその表現方法の変遷をたどる個展「あみだだだだ」が、東京・表参道のファーガス・マカフリー東京で開催されている。会期は3月14日まで。
元永は独学で作品制作をはじめ、40年代後半に新聞などのマンガ家、マンガイラストレーターとして仕事を開始。50年代に入ってから、元永の絵画はシンプルな絵文字や擬人化されたフォルムによる独自の展開を見せるようになる。そしてその後「具体美術協会」の中心人物となり、メンバーとともに実験的で遊び心にあふれた精神を構築。57年頃からはより抽象的で流れるような作風で、「ハイ具体」とも言えるスタイルの絵画を制作した。
しかし、66~67年のニューヨーク滞在と次男の誕生を受け、元永は絵画への重層的なアプローチを放棄し、アニメのような視覚言語に再び挑戦。エアブラシを用いたグラデーションのテクニックを発展させるとともに、子供のためのイメージ制作に実践を広げ、73年に最初の子供向け絵本『ポアン・ホワンけのくもたち』をリリース。その後も妻・中辻悦子とともに、全33冊の初期学習本を出版した。
80年代には、初期の作品に見られる擬人化されたかたちと、60年代の絵の具の流し込みによる作風が融合。マンガ作品を思わせるゆるいグリッド形式とエアブラシ線のフレーミングを用いて、「あみだくじ」に喚起された《あみだだだだ》(1980)など、子供たちのアートと遊びを直接的に連想させる作品を手がけた。
本展では、1980~85年に制作された元永の絵画7点を紹介。後の世代に新たな表現を追求するための土壌を与え、「具体」の方法を独自にアップデートした元永の実践を垣間見ることができるだろう。