世界遺産・法隆寺の西院伽藍の中心をなす、世界最古の木造建築である金堂。そこには約1300年前の飛鳥時代に描かれた壁画があった。これを次世代に継承する取り組みは明治時代から行われ、昭和初期から戦後にかけては原寸大の写真撮影や画家による模写、合成樹脂による壁画の強化など様々な記録・保存方法が試行されてきた。
しかし東洋仏教絵画の白眉とも言われたこの貴重な壁画は、1949年に金堂の解体修理が進められる最中の火災で大半が焼損。現在はその前に描かれた模写の数々やガラス乾板から、かつての壁画の威容をうかがい知ることができる。
そんな金堂壁画の優れた模写や焼損後に再現された現在の壁画に加え、国宝・百済観音など金堂ゆかりの諸仏を展覧する特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」が、東京国立博物館で開催される。会期は2020年3月13日~5月10日。
本尊釈迦三尊像を中心に仏教世界を彫刻・絵画で表現した法隆寺金堂。なかでも仏菩薩浄土を大画面に描き出した12面の壁画は、インド風の表現を残しながら中国・唐時代の様式を踏襲した本格的な古代仏教絵画の遺品だ。本展では、1884年に画工・桜井香雲が開始した現存する最古の本格的な現状模写に加え、大正~昭和期に行われた日本画家・鈴木空如による模写、そして焼損後の1958年から安田靫彦、前田青邨を中心に制作された「再現壁画」を紹介する。
また今回は、国宝・百済観音が23年ぶりに東京で公開。飛鳥彫刻のなかでも特異と言われる頭部の小さい長身の姿や微笑み、風をはらんで翻る天衣の曲線が特徴的な百済観音は、芸術家をはじめ多くの人々を魅了してきた。そのほかにも本展では毘沙門天立像や吉祥天立像など、金堂ゆかりの諸仏を見ることができる。