現代社会が孕む諸問題を、ユーモアを交えて表現する美術家・柳幸典の個展が、東京・原宿のBLUM & POEで開催される。会期は11月2日~12月21日。
2019年、ロサンゼルスのBLUM & POEで行われた吉竹美香キュレーションによる「パレルゴン:1980年代、90年代の日本の美術」展では、植民地的支配と戦時中の強制収容といった歴史的史実に言及した《Ground Transposition》(1987)、海戦や暴力の歴史をテーマとした《Pacific K100B》(1997)といった柳の代表的な作品群を取り上げた。これに続き、本展でも柳の取り組みが紹介される。
これまで制度的・国家的統制のシステムや国の境界、植民地化、民族離散、難民危機といった事象を扱い、政治的に押し付けられたナショナリズムの表象や、「不変の象徴的な記号」といったテーマに取り組んできた柳。
本展は、柳が隠れた戦争の歴史を掘り起こす場として太平洋に興味を持ったという90年代後半から00年代初頭にかけて制作されたシリーズや、それに関連する作品群で構成。第二次大戦中の大日本帝国海軍の水上機母艦であり、44年9月に米軍機による爆撃を受け、現在もフィリピンのブスアンガ島に位置するコロン湾深くに沈む「秋津洲」を模した鋳鉄製の立体作品《アキツシマ50·I / II》(2019)を中心に展開される。作品名にある「50」とは、本作が原寸大の50分の1のレプリカであるということを意味し、また「II」は00年に発表され、現在は広島市立現代美術館に所蔵されている同題の作品に続く新たなバージョンであることを示す。
これに加えて、キャンバス作品の《アキツシマ・インストラクション》や、柳が母艦・秋津洲の爆沈地で行ったスキューバダイビングによるフィールドワークで撮影した記録をもとにしたドローイング作品《ダイビング・ログ(アキツシマ)》、写真作品《アキツシマ(BOW)》ならびに《アキツシマ(GUN)》なども会場に並ぶ。