20世紀のチェコで活動した、ヨゼフ・チャペックとカレル・チャペックのチャペック兄弟。兄のヨゼフはキュビスムの画家として活動しながら、子供のための作品の発表や弟・カレルの著書の装丁を手がけたほか、自身も文筆業に勤しむなど多方面で活動した。いっぽうのカレルは文筆家として、多くの新聞記事、戯曲、旅行記、批評などを発表。第二次世界大戦前の不安定な社会において精力的に作品を制作した兄弟だ。
そのチャペック兄弟による「子どもの世界」をテーマにした展覧会が、2018年4月7日から東京・松濤美術館で開催されている。兄弟の祖国・チェコにある世界遺産都市クスナー・ホラーに開館した現代美術館GASKで開催された展覧会をもとに構成された。
本展覧会は「子どものモチーフ」、「子どもの視点」、「様々な仕事」、「おとぎ話」、「いぬとねこ」という5つのテーマに分かれている。
「子どものモチーフ」では、まずヨゼフのキュビスムの作品を見ることができる。第一次世界大戦下の不安を経て、独自の様式を形成していったことがわかる作品が並ぶ。
第一次世界大戦後、娘のアレンカが生まれたヨゼフは、子供というモチーフを多く描くようになる。なお、《スカーフを巻いた少女(娘アレンカ)》はチェコ国外で初めての公開となる。
「子どもの視点」では、主にパステル画で描かれた子供たちや動物の作品を展示。娘のアレンカが持つ、素直で自由な子供の視点と想像力に影響されたヨゼフは、子供を飽くことなく描くとともに、その造形表現を深化させていった。また、パステルと水彩の中間ともいえる技法を発見し、それにより子供や動物を優しく描いている。
「さまざまな仕事」では、児童書の挿絵や切手の図面などが紹介されている。ヨゼフは児童書を専門にしていたわけではないが、イラストレーターとして高く評価を得ていた。ハイ・アートとロウ・アートの区別をつけないという姿勢のヨゼフは、子供向けの作品においても油彩画と同様に取り組んでいた。
いっぽう、本章に展示されている油彩画《二人の頭部》に描かれている、優しげながらも物憂げな表情をしているこの二人の男性は、第二次世界大戦が忍び寄ることに不安を抱く、平和を愛したチャペック兄弟の姿を象徴している。
第二次世界大戦が忍び寄り、兄弟は政治犯としてナチスに監視されることとなる。カレルは逮捕される前に肺炎で亡くなり、ヨゼフはナチスにより強制収容所に送られ、収容所を転々としたあとに亡くなったとされている。
日本でも知られている『長い長いお医者さんのお話』の挿絵が展示されているのが「おとぎ話」の章だ。ここには同作品の挿絵のほか、新聞に掲載された様々な作品の愛らしい挿絵の原画と、実際に掲載された新聞を見ることができる。
また、「いぬとねこ」では、兄弟が愛した犬や猫を描いた作品や、カレルが愛犬ダーシェンカを撮影した写真、カレルの愛用カメラなどの資料に注目したい。
子供に向けた作品を発表しただけではなく、子供が見ている世界の美しさや、子供がまだ何者にもなり得る段階の、プリミティヴな表現方法に惹かれ表現してきたチャペック兄弟。その愛らしいだけではない世界観と哲学にふれることのできる展覧会だ。