ジョルジュ・ブラック(1882〜1963)は、キュビスムの創始者として、絵画に革新をもたらした画家。本展では、その最晩年のシリーズ「メタモルフォーシス」を日本で初めて本格的に紹介、さらに初期からの絵画作品も加えた90点の作品を展示し、ブラックの造形表現の変容を概観する。
「メタモルフォーシス」シリーズとは、1961から63年の間、ブラックが「すべての造形物の美化への挑戦」を目的として掲げて制作した一連の平面・立体作品。古代ローマの詩人・オウィディウスによる『変身物語』に登場する神々の変身をテーマに、絵画・彫刻をはじめとする純粋美術から、ジュエリー、陶磁器、ステンド・グラスなどの装飾美術まで、様々な形態の作品を制作した。
本展では、ジュエリークリエイターのエゲル・ド・ルレンフェルドとの共同制作のジュエリー群を中心に、陶磁器・彫刻・室内装飾など、様々な素材の立体作品を紹介。貴石や貴金属などの素材を活かして制作されたジュエリー作品は、63年に当時のフランス文化大臣アンドレ・マルローに「ブラック芸術の最高峰」と賞賛され、パリ装飾美術館での「ブラック・ジュエリー展」開催に至るなど高く評価されている。
その素材を活かした表現は、金属、鉱石、ガラスなど多様な素材を用いた彫刻作品や、職人と共同で制作した装飾パネル、モザイク、タピスリーなどの室内装飾作品にも見られる。室内装飾作品では、フランス語で貴石とステンド・グラスの両方の意味を込めた「ゲマイユ」という言葉で呼ばれる美しい色彩によるステンド・グラス作品も展示される。
さらに、平面作品として、ブラックが18歳の頃描かれた、現存する最初の作品である《モンソー公園》(1900年)や分析的キュビスム期の作品《静物》(1911年)など画業の変遷をたどる絵画作品、そして「メタモルフォーシス」シリーズの立体作品の下絵でもあり、晩年のブラックのエネルギーが濃縮された作品であるグワッシュ画の作品群も展示。その作品群にはブラックの絶筆とされる《青い鳥、ピカソへのオマージュ》(1963年)も含まれており、展覧会を通してブラックの初期から晩年への「変容」を紹介する内容となっている。