「爆音上映」は映画批評家でboid主宰の樋口泰人が始めた上映イベントで、いまや各地で映画の爆音上映が行われている。これは、一般的な映画用の音響セッティングではなく、音楽ライブ用の音響機器を使用することで、高音質で高音響の映画を個別に試みるというもの。ただ音を大きくするだけではなく、爆音にすることで、通常上映では小さく沈んでいた音も浮かび上がらすことができ、より作品のディテールに迫ることも可能となる。
そんな爆音上映の映画祭を、2013年より毎年開催している山口情報芸術センター[YCAM]では、今年3月に「YCAM爆音映画祭2018 特別編:35ミリフィルム特集」を実施。その中で、マシュー・バーニーの伝説的映像作品『クレマスター』シリーズ全5部作を世界で初めて爆音で上映する。
『クレマスター』は、アメリカの現代美術家マシュー・バーニーが自ら制作・監督と一部出演を行う映像作品シリーズで、1994年に第1作が公開されてから最終作が完成した2002年まで、1都市2作品まで、各1回しか上映されなかった。昨年11月には東京都写真美術館で5部作の一挙上映が行われるなど、いま再び注目を集めている。
今回の爆音上映は、2017年とは違う新たなプリント(35mmフィルム)を使用されるのが特徴だ。爆音映画祭プロデューサーの樋口は今回のクレマスター爆音上映について次のように話す。
「YCAMは映画館ではありません。だからこそできることがある。物理的にはスピーカーなど音響機器のセッティング。通常の5.1チャンネルのスピーカーのほかに、天井や座席下にも配置して、作品によってそれらの音を出し入れします。すると音が生き物のように動く。映画から生まれた新しい生命が、客席を揺らす。そんな体験を味わうことができます。上映時間も含め、『映画』という枠組みを超えて、誰も観たことのない何ものかへと変容し続ける『クレマスター』という作品の上映には、こんなふさわしい場所はないと思います」。
一般のチケット(前売券)の販売は1月13日10時から行われる。