1908年栃木県に生まれた田中一村(本名・田中孝)は、彫刻家であった父親の指導により若くして画才を開花させ、18歳で東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学。しかし、2ヶ月余りで退学し、その後は独学で制作を行う。
画壇から離れ、数少ない支援者に支えられて制作を続けた一村は、50歳のとき、画家としての人生の集大成となる作品をつくろうと単身で鹿児島県・奄美大島に移住。69歳で亡くなるまで生活のすべてを絵のために捧げ、亜熱帯の植物や鳥などを題材とした生命力あふれる新たな日本画の世界を切り拓いた。
本展では、《白花と赤翡翠》《熱帯魚三種》をはじめとする岡田美術館の収蔵作品を初めて公開するほか、一村の最高傑作と名高く、中学校の美術の教科書の表紙にも採用された《アダンの海辺》(個人蔵、展示期間8月24日~9月24日)も特別に公開。
1点を完成させるまでに2〜3ヶ月を費やし、出来栄えに満足できない作品は廃棄していたという一村の奄美時代の作品は、わずか30点ほどしか現存していない。また、そのほとんどが奄美大島にある田中一村記念美術館か個人の所蔵となっているため、本展は奄美以外の地で一村の作品を鑑賞できる貴重な機会となる。
また、一村と同い年で東京美術学校日本画科の同期でもある東山魁夷(1908〜99)や、画風や生き方に一村との共通点が多く指摘されている伊藤若冲(1716〜1800)の作品など、関連作品も多数展示される。