表現において第一に考えるのは、キャッチーで人の目を引くようなビジュアルを制作すること。コンセプトありきでスタートするわけではないが、今回の個展では見るものの目線を引きつけるビジュアルを重視しながらも、これまでとは異なる制作プロセスにトライした。作品のテーマは「群れ」だという。
「群れには空気があったり、その空気を変えられる人が現れるときに無視しようとする人とか仲間はずれにする人、期待する人もいます。私も自分がどういう群れに属してきたんだろうと考えるようになって、群れと仲間はずれみたいなものってなんなのかを表現しようと考えました」。
かつて人間は、群れがなくては狩りをして獲物を手に入れることも、田畑を耕して農作物を得ることもできなかった。しかし今では群れがなくても生きていけるし、趣味嗜好や思想に基づいて群れを選ぶこともできる。では、実際に意思をもって群れを選ぶとは何を意味するのか、そんな問いを込めて作品を仕上げたという。最近自分が東京から鎌倉という場所を選んで引っ越したことや、このところ報じられているBlack Lives Matter(BLM)やアメリカでのアジア人差別などの人種問題も「群れ」への意識を向けるきっかけとなった。
「『群れ』というテーマに合うんじゃないか」と考え、新しい技法にも挑戦した。中米で壁画運動を展開したグアテマラの画家、カルロス・メリダの色面分割の引用や、「見えないものを見えるようにする」ことを説いたパウル・クレーからのインスピレーションもあったという。「いままではデジタルで絵を完成させてから、それをキャンバスに移してトレースする描き方をしていましたが、今回は何も考えず画面に色を置き、色面分割で生まれる柄みたいなものから絵を描き出しました。やってみるとコントロールするのも難しくて、でも即興で描いていく楽しさがありました。今後もデジタルとのバランスを考えながら制作していきたいですね」。
「群れ」をテーマに複数の作品を同時に描き、色の組み合わせや分割した色面の形も見比べながら全体のバランスを考慮し制作をしながら、作品を会場に搬入して壁面に展示してからも、さらなる可能性を感じてペインティング作業を続けた。作品制作において型にはまることを拒み、企業などとの多様なコラボレーションを楽しみながら表現言語を増やし続けるKeeenueをこれからも追いかけていきたい。