古くから中国で親しまれてきた布、その裏側からわずかに透けて見える絵柄を絵具で着彩した「ぬりえ」シリーズ。あるいは、広大な雪原のなか、レール状に残る何者かの足跡をたどる人々が画面の外、中へと行き来するモノクロの映像作品《無題》(2016)。上海に生まれ、9歳で家族と青森へと移り住んだ潘逸舟は、映像、インスタレーション、写真、絵画など様々なメディアを用いて、自らの経験、個人、社会と向き合い作品を制作してきた。
作家は、中国で大量生産された布に手を加えることでコピーとオリジナルの中間地点を探る「ぬりえ」で、アイデンディティのあり方を問う。《無題》では、各々が雪原で行き先を探しながらも、既成の道筋を歩いているということ、難民・移民の問題を暗示しながら、人が存在する場所について問いかけている。「それぞれが違うものを見ながらも、社会、共同体、コミュニケーションと呼べるものが曖昧に成立している。無意識につくられていく関係性や情景に興味があります」と作家は話す。
URANOにて7月1日から8月5日まで開催中の個展「私たちの条件」では、平面、映像作品など約10点を展示。「私とあなたを区別するもの、一緒にするもの、社会的な立場や所属が形づくる、見えない“私たち”の“条件”を、様々な作品を通して考えています」。
出品作には雪原、海、島といった大きな自然の中で人々が翻弄され、拮抗するかのような作品も目立つ。「私は、自然風景をひとつの社会として見立て、身体がそこに存在するための条件を見つけようとしている。身体が条件と対話することで、歴史や大きな物語から離れた小さな個人の物語を見出すことができるのではないかと思っています」。
(『美術手帖』2017年8月号「ART NAVI」より)