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2016.5.31

期待のアーティストに聞く! 富田直樹が描き出す「無」の光景

空きテナントのファサードや不動産屋が案内する空き部屋の光景など、寂寞としてニュートラルな状態のモチーフを厚塗りの絵具で描き出す、1983年生まれの富田直樹。現在、MAHO KUBOTA GALLERY(東京・外苑前)にて、新作展「郊外少年/suburban boy」(5月10日〜6月11日)が開催中だ。本展では、大都市近郊の風景やフリーターの若者たちをモチーフとした作品を発表している富田に、作品について聞いた。

野路千晶

スタジオ航大(茨城・取手)にて Photo by Fuminari Yoshitsugu
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無名の景色の光と影

厚みのあるマチエールが描く、空きテナントのファサードや人の気配のない部屋。「いかにして"無"を描くかをいつも考えていました」。そう話す富田直樹が描く光景にはあるべきものがない、あるいは何かが去ってしまった後を思わせる空虚さがある。

高校時代には地元で仲間とともに派手に装い、夜ごとバイクを走らせていた富田は「気ままだけれど、どこか消耗する日々だった」と当時を振り返る。20歳を過ぎ、一念発起で美術大学へ進学。在学中は身の回りの風景や、ショッピングセンター内のファストファッションの店舗などを撮影、その写真をもとに絵画を制作してきた。作家の描く、日本のどこにでもありそうな光景。それは画一的な街に生きる、郊外生活者の渇いた視線を想起させる。

富田直樹 Snowy Morning 2016 Oil on Canvas 218.2 x 291cm © Naoki Tomita / MAHO KUBOTA GALLERY

MAHO KUBOTA GALLERYにて5月10日から6月11日まで開催される個展「郊外少年/suburban boy」では、カナダの風景を描いた大型作品など新作を展示。半ば無意識的にモチーフを選びながらも、一貫して「無」を描いてきた作家だが、今回の個展に際して、ある人物から次のような指摘を受けたと話す。「厚塗りした絵具の凹凸によって、対象に光と影を与えているのではないか」。

「No Job」展示風景 © Naoki Tomita / MAHO KUBOTA GALLERY

光と影。その両義性は、ファッション雑誌のスナップに掲載された無名のフリーターを描いた肖像画シリーズ「No Job」にも表れている。0(ゼロ)号のキャンバスを用いる本作は、フリーターに対する「何もないゼロ、始まりのゼロ」の2つの意味が込められているという。終わりであり始まりでもある無と、あらゆる事象の両義性。富田の絵画は、郊外、そしてフリーターといった現代の記号とその多面性を示唆する。

『美術手帖』2016年6月号「ART NAVI」より)