空中を這うように天井から吊るされた1本のロープ、壁に並ぶ「目」の絵画、そして床上のアクリルケースの中には、破られ、重なり合う写真が見える。金沢21世紀美術館の新進作家紹介企画「アペルト」の展示にて、武田雄介は13点の作品を発表(1月21日から5月7日まで)。イメージの奥行き・湿度というテーマを考察する。
大学時代に絵画を学んでいた武田には、ある習癖があった。「ひとつのモチーフを描いているそばから異なるイメージが浮かび、描き始めてしまう。“これ以上は絵具を重ねられない”といった限度や期限によってしか、作品を完成させることができませんでした」。この対応策として、作家は絵画を描くためのルールをいくつか設定。奇しくもそれらのルールは、脳内のイメージとキャンバスを往復する内省的な眼差しを解放していった。「気候や景色、身近な生き物といった周囲の事象が目に留まるようになり、映像や写真でそれらを記録し始めました」。こうした変化は、写真、映像、立体などの多彩なメディアを取り入れたインスタレーション作品の契機となった。
武田はいま、大きな川のように流れては枝分かれするイメージをせき止め、接ぎ木し、別の流れをつくり出そうとしている。そしてアペルトで展示中の13点は1年前、とある映画をきっかけに飼い始めたピラニアから想起したイメージ、そこからさらに派生するイメージをもとに同時進行的に手がけたというが、「各作品は、映像のワンシーンのようなもの」だと言い表す。集まることで初めて全体の意味をなす、空間に点在する各シーン。意味と同時に浮かび上がるのは、絶え間なくおおらかに循環するイメージの中を自由に泳ぐ作家自身の姿だろう。
(『美術手帖』2017年4月号「ART NAVI」より)