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「合理的配慮」でミュージアムを公平で開かれた場に。国立アートリサーチセンター研究員・鈴木智香子インタビュー

今年4月1日から事業者における「合理的配慮」の提供が公的施設のみならず、民間事業者も含め完全義務化となったことを受け、国立アートリサーチセンター(以下、NCAR)は、国内の美術館・博物館で働く職員や、障害のある方を含むミュージアム利⽤者に向けて、「合理的配慮」に関する具体的な事例や解説を掲載した『ミュージアムの事例(ケース)から知る!学ぶ!合理的配慮のハンドブック』を製作・刊行した。これをきっかけに、ハンドブックの製作に当たったひとりである鈴木智香子(NCAR研究員)に話を聞いた。

聞き手・文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

国立アートリサーチセンター研究員・鈴木智香子

課題は各館における「合理的配慮」の理解と一律対応からの脱却

──まずはじめに「合理的配慮」とはどういったものでしょうか。事業者からの提供が官民ともに完全義務化されたことで耳にする機会が増えましたが、まだ聞き馴染みのない方々も大勢いるかと思います。

 「合理的配慮」とは、障害のある人から社会のなかで出会った困りごとや社会的障壁を取り除いてほしいという意思が伝えられた際に、社会(行政機関や事業者)側がその人の特性や状況にあわせて調整したり変更したりする対応のことです。ポイントは「個人へ個別の対応をする」ことで、「あらゆる人が公平な機会をもって社会参加できている状態」を実現するために非常に重要な概念であり、ミュージアムを開かれた公平な場にしていくためにも必要なものです。

 初めて「合理的配慮」という概念が明文化されたのは2006年の国連総会で採択された「障害者権利条約」においてで、その後日本では14年にこの条約に批准、16年4月より「障害者差別解消法」という法律が施行されました。当時は、いわゆる行政や自治体での実施がメインであり、民間事業者は努力義務でしたが、今年の4月にはそれが官民ともに完全義務となりました。

 いままでも合理的配慮という概念の有無に関わらず、ミュージアムの問い合わせ窓口や担当部署では様々な要望や相談を受けてきたと思います。ただ、どのように対応する必要があるかについて、各美術館の内部であまり共有がされていない状況があります。完全義務化となった現在においてもなお、「前例がない」「特別扱いができない」などの理由で、一律の対応をしなければならないという認識となっており、理解が進んでいないことが一番大きな課題です。今後取り組む必要があることについて皆さんが共通認識を持ったうえで、どう対応できるかを一緒に考えていくことが重要だと思います。

『合理的配慮のハンドブック』(2024年3月)

──「合理的配慮」について理解が進んでいないことが現状の課題とおっしゃっていましたが、これはNCARによるどのようなリサーチでわかってきたことなのでしょうか。また、そこで得られた現場の声もお聞かせください。

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