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作家を消費しないためにできること。代表・栗田裕一が語る「T&Y Projects」が目指すもの

東京・天王洲のTERRADA ART COMPLEX IIの「T&Y Projects」は、代表を務める栗田裕一が自身のアートコレクションを家具とともにコーディネートする形態で作家の個展を開催してきた。コマーシャルギャラリーとは異なるかたちで作品を見せる本スペースについて、栗田の思いをインタビューした。

聞き手・構成=安原真広(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「T&Y Projects」にて、栗田裕一

 昨年10月、東京・天王洲のTERRADA ART COMPLEX IIにオープンしたスペース「一般財団法人 T&Y Projects」。代表を務める栗田裕一は、このスペースで自身のアートコレクションを家具とともにコーディネートした展覧会を開催してきた。これまでに五木田智央、井田幸昌、花井祐介の作品を展示してきた栗田。本スペースの目的や運営にあたっての志を栗田に聞いた。

──自身のアートコレクションを展示する「T&Y Projects」。作家のプレゼンテーションスペースとして機能させるというコンセプトは、どのようにして生まれたのでしょうか。

 いちコレクターが自分のコレクションをコーディネートして見せる、ということは日本ではあまりありませんが、欧米などでは個人や財団のコレクションスペースをよく見かけるように思います。

 また、昔から家具も好きでかなりの数をコレクションしてきたので、その家具とアートを組み合わせて見せることで、アーティストの作品の新しい見方を提案するビューイングスペースをつくりたいと思いました。

「花井祐介」の展示風景より

──コレクターが自身のコレクションを展示するコレクターズ・ミュージアムはありますが、コレクションのなかでもいち作家にしぼって、個展として見せる形態は国内ではあまり例を見ません。

 単に自分のコレクションを展示するだけではなく、作家さんとも相談して個展をつくっています。購入した作品を箱に入れて倉庫で眠らせているよりは、こうして作家さんが納得するかたちで展示をすることで、その魅力を広く伝えられるのではと思います。また、合同展でしか表現できない魅力もあると思うので、今後機会があれば、そういった展示も開催していきたいとも思っています。

──栗田さんはどのようにアートコレクションを始めたのでしょうか?

 最近はアートコレクターと称されることが多くなりましたが、個人的にはあまりその意識はないんです。私はかつて、アパレルで働いていて、五木田智央さんや花井祐介さんのデザインに触れていました。特にアメリカ西海岸文化のファッションや文化が好きで、バリー・マッギーをはじめとするアメリカのストリート・アートの作家についてもずっと興味を持っていました。その流れで自然と作品を集めるようになり、現在に至ります。

「花井祐介」の展示風景より

──「TERRADA ART COMPLEX」という国内屈指のギャラリー集積地にスペースを構えるというのも、相乗効果が期待できそうですね。

 五木田さんの作品をコレクションしていた縁で、(五木田を取り扱うギャラリーの)タカ・イシイギャラリーの石井孝之さんから声をかけてもらい、こちらにスペースを構えることができました。基本的にアートが好きな方が訪れる施設ですが、純粋なホワイトキューブとしての空間でないところで作品を見ることで、みなさん色々と発見をしていただければと思っています。

──例えば、花井祐介の個展では家具とともに、絵画や陶作品などが並んでいましたね。

 描きおろしてもらった作品もありますが、いずれも、すべて私のコレクションによって構成しています。また、家具についても私のコレクションを中心に構成しました。花井さんや家具の専門家の意見を取り入れつつ、展示空間をつくりあげました。

「花井祐介」の展示風景より

──ひとりのアーティストと協業しながら個展としてコレクションを見せる、そのいちばんの意図はなんでしょう。

 日本の若手から中堅にかけてのアーティストが国内だけで消費されてしまうことに危機感があります。いま、日本のアートマーケットはかつてとは比べ物にならないほど盛りあがっていますし、それ自体は良いことだと思うのですが、すぐ消費されて作家が忘れられていってしまう可能性も高い。本当はもっと長い目で先のシーンを考えなくてはいけないのではないでしょうか。

 だから、ひとりのアーティストに絞ってその作家性を紹介し、さらに海外にも紹介していきたいと思っています。この場所を日本とアジアや欧米のアートマーケットの架け橋として、作家の活躍を広げる足がかりにしたいんです。天王洲でしたら羽田空港からのアクセスもいいですしね。

 大それたことを言いましたけど、根本にあるのは自分の好きな作家がもっと海外で評価されたらいいのに、というところでしょうか。コレクションは基本的に自分が気に入った作品なので、その作家さんたちへの支援に少しでもなればいいな、というのが一番ですかね。

「T&Y Projects」にて、栗田裕一

──国内作家のプレゼンテーションを志向する一方で、初の海外作家の個展も予定されていますね。

 はい、海外の作家を国内に向けてプレゼンテーションしたいという思いもあるので、今回クリストファー・ハートマンというロンドンを拠点に活動している作家の、アジアで初めての個展を6月25日〜7月23日に開催します。こういった、日本で初めて海外の作家の作品を見せるということも、バランスをとりながらやっていければと考えています。

──栗田さんが「T&Y Projects」を行ううえでのモチベーションはどこにあるのでしょうか?

 僕自身は美術の学校に行ったわけでもないし、ギャラリーで働いたこともないのですが、美術史に直結しているアーティストも、ストリートで活躍するアーティストも好きなんです。例えば料理でもフレンチや、イタリアン、和食などさまざまな種類がありますが、どれもそれぞれ魅力があるし、そのときの気分によって食べるものは変わりますよね。アート業界でも、ストリートや現代美術の垣根を、ジャンル問わず横断できるような立ち位置のスペースが存在していいと思っています。

 作品がたんなる商品として消費されてしまわないように、ひとりの作家をしっかりとコーディネートされた空間で紹介して、新たな「見せ方」を提案する。作家の背景にあるカルチャーも含めて作家がプレゼンテーションできるような空間をつくることで、少しでもその作家の助けになればと思います。

 ありがたいことに、すでに1年ほど先まで展覧会の予定が埋まっています。ギャラリーでも美術館でもない場所としての役割を、今後も担っていければと考えています。

「花井祐介」の展示風景より

編集部

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