──2018年のオープン以来、国内外のアーティストの展覧会を開催しているアーティスト・ランスペース「4649」ですが、読み方は「ヨロシク」でいいのでしょうか?
小林 正確な読みは「フォーシックスフォーナイン」なんですが、みんなは「ヨロシク」って呼んでいます(笑)。名前の由来についてはよく聞かれますね。まあ正直、なんでも良かったんですけど。
高見澤 海外のギャラリーで、住所をそのままギャラリー名にするところがあるじゃないですか。ギャラリーの名前に数字が入っているのが、かっこいいなと思ったので。
清水 そして、なにか日本語としても読める数字がいいかなって(笑)。
──アーティスト・ラン・スペースなので、展覧会を開催しつつも、3人はそれぞれがアーティストとして制作活動もしているわけですよね。
高見澤 僕は絵画作品をおもにつくっていますが、靴下を使った作品など、レディメイド的なものもつくります。「価値」について関心があるので、美術という現象における価値そのものを研究するように制作をしています。なかなか言葉だけでは説明しにくいですが。清水は彫刻家として活動していますね。
清水 彫刻以外にも、ドローイングや、詩を組み合わせた作品もつくっています。個人的でエモーショナルなものを、日常の観点で切り取るような感じで。
小林 僕の興味の対象も日常かもしれませんが、清水の言う日常とはちょっと違っていて、内的な日常ではないです。いま、自分の周囲に何が存在しているのか、ということが重要ですね。あと、日本の写真史に興味があり、印刷物と写真との関係を問うような視点から作品をつくっています。
──それぞれがアーティストとして活動しつつ、同時にギャラリースペースを運営することは、かなり大変なことのように思えます。
高見澤 それ以外の選択肢がなかったというか。とくに僕の作品は、自分で言うのもおかしいのですが、売りづらいものなので。そういった作品を、どのように発表したらいいかわからず、アーティストとして生きていくことを考えた結果の選択でした。
──自分たちの展示だけではなく、ほかのアーティストの展覧会も企画して作品を販売していくというのはどのようなモチベーションからなのでしょう?
高見澤 モチベーションというより、必要に迫られてという感じですかね。僕らのまわりにはおもしろいアーティストが結構いるんですけど、みんな展示する手段や場所がないんです。彼らは、カオス*ラウンジやパープルームのようなコミュニティとはまた違う場所で制作をしています。そのような状況なので、まずは展示ができる場所をつくらないと、なにかしらの可能性も生まれないと思っています。
──展示スペースを探すことは簡単ではないと思いますが、最初はどのような形態で始めたのでしょうか?
清水 スペースを持つきっかけとなったのは、僕が2015年に始めた「Workstation」というブックレーベルです。つくったアートブックを販売したり、展示したりする場所が必要だったので、知人から高円寺にあった物件を借りてスペースを始めました。それからみんなに声をかけたんです。
高見澤 清水から誘われたときは即決でした。当時はまだ大学生で、作品を展示する場所が本当になかったんですよ。だから「自分たちでつくるしかない」という考え方には大賛成でした。
最初はみんなで家賃を割って、個展を1人ずつ交代で開催しましたね。2年ほど高円寺でやり、次に阿佐ヶ谷に引っ越しました。当時はイベントも頻繁に開催していて、PUGMENTのファッションショーをやったりしていましたが、やがて建物が取り壊されることになって……。
小林 その頃、よりギャラリーに近い活動をしたくなっていたこともあって、3人で新しいことを始めることにしたんです。でも、最初はスペースがなかなか見つからなくて。
高見澤 MISAKO&ROSENのローゼン美沙子さんに相談して物件を探したりしたのですが、最終的にKAYOKOYUKIの結城加代子さんが協力してくれて、休廊しているときにスペースを貸してもらうという形態でプレオープンしたんです。
高見澤 さらに、アーティスト・ラン・スペースの「XYZ Collective」のCOBRAさんから、共同でスペースを使わないかという話をもらいました。ニューヨークのアーティスト・ラン・スペース「Reena Spaulings」が、メキシコシティの「House of Gaga」というギャラリーと交互に展示をしていることを知っていたので、同じようなやり方もありだと考え、XYZ Collectiveと交代で展示をする現在の形態に落ち着きました。
──いまお話に出たMISAKO&ROSEN、KAYOKOYUKI、XYZ Collectiveは、山手線の北側のエリアに拠点を置いていますが、4649もこの地域のアートコミュニティへの参加意識は強いのでしょうか?
高見澤 大塚、巣鴨、駒込などに拠点を置くギャラリーやアーティスト・ラン・スペースとのつながりはとても重要だと思っていますし、実際に助けられることがとても多いです。あと、アートがいい意味でも悪い意味でも街を変えるはずなので、おもしろいですよね。それに、中目黒とか渋谷とか青山のような場所で、若い人がアートをやっちゃダメでしょって思ってます。
──お話いただいたような経緯を経て、2018年4月に現在のスペースで松下和暉さん、濱田泰彰さん、下村努さん、高見澤さんによる4649のオープニング展覧会「Group Show」(2018)を開催するわけですが、このキュレーションは誰が務めたのですか?
高見澤 キュレーションは僕と下村努が行いました。アーティストが作品に関わるうえでの主体性が、歴史とともにどのように移り変わっていくのか興味があったので、同様の興味を持っているアーティストを集めたんです。
例えば、参加アーティストに名を連ねている下村は、ひとりのアーティストのようでいて、実は匿名のプロジェクトなので、アーティストの主体とはなにかを考えることにつながります。松下和暉も、文章のアナグラムから作品を制作するので、作品づくりの主体を外部に委ねるという側面があります。ただ、いちばん大事にしたのは、作品が並んだときの不穏な感じですかね。
清水 高見澤が言う「不穏な雰囲気」というのは、現代人の日常を表現するうえで欠かせないキーワードだと思っています。それが良く出ていたのが、すごく印象深かったです。
小林 あの展示は、自分たちの進む方向性が可視化されていました。
清水 「Group Show」を開催するまでは、過去に飲食店だった名残りで、壁にまだ人魚の絵が描いてあったんですよ。展覧会の前にその絵を消したとき、新しい場所へと解放された感じがしました。
──展覧会をキュレーションするときは、3人それぞれがアーティストとして持っている興味が投影されたりするのでしょうか?
高見澤 展覧会には、全体を通してのビジョンがあり、それをベースにアーティストを呼んでいます。ただ、僕らはコマーシャルメディアになりたいわけじゃないので、キュレーションは偏ってもいいと思っていて、僕の場合は自分の関心と関連する人を呼ぶことが多いです。
興味といえば、同世代のニューヨークのアーティストたちが僕は気になっています。なかでもアレックス・マッキン・ドランとジャスパー・スペセーロというアーティストがとても好きで、作品にも共感する部分があり、展覧会を日本でもやりたいと考えていました。すると、あちらから「展示をやりたい」って言ってくれて、現在開催中の日本で初めての個展「Good Number // Bad Bridge」(2019)が実現できました。
小林 僕らと同世代のアーティストは、ある種の島宇宙というか、それぞれ趣味趣向や興味の近い人が固まっている気がして、お互い全然違うなと思うことが多く、刺激があります。
──先ほどからお話を聞いていると、4649という名前が海外のギャラリーを意識していたり、好きなアーティストも海外の方の名前が多く出るなど、海外のアートシーンを強く意識していると感じます。
高見澤 基本的にアートマーケットは欧米の規模が大きいですし、美術をやっていくなかで、海外とつながらずにどうやって生計を立てて生きていくのか、正直なところまったく想像できないです。僕らのがんばり次第というところはありますが、日本で受容される形態の作品はすごく限られているし、共感できないと思われてしまうものも多いですよね。
あと、海外では美術系の学校を出てアーティスト・ラン・スペースを運営している人が多いので、4649を立ち上げるにあたっては参考にしました。もともと、好きなアーティストがアーティスト・ラン・スペースを運営していて、それに憧れていたんです。例えば、ジョン・ケルシーとエミリー・サンドブラッドが立ち上げた「Reena Spaulings」や、マーガレット・リーの運営する「47canal」などで、それらの影響は強かったです。
清水 僕も、海外のアーティストへの興味のほうが、国内のアーティストと比べてもはるかに大きいです。昨年はマイアミで開催されるアートフェアのNADAに初参加したり、ニューヨークのギャラリーやアーティスト・ラン・スペースを実際に見て、改めてすごく良いと思いました。
高見澤 アートフェアに参加するのは初めてでしたが、NADAはアートが過剰なスケールで非人間的な売買をされていることに、ちゃんと抵抗しているフェアだと実感しました。現地では、アートが生活や場所に根づいていることがわかりましたし、若いカップルが僕らの作品を買ってくれたりして、嬉しかったですね。
──日本ではほとんど紹介されていない海外のアーティストの展覧会も、次々に開催していますが、どのようにアーティストを見つけてくるのですか?
高見澤 たとえば、1月に開催した「苦労のない穴にさようなら」(2019)というグループ展に参加していたアーティストの濱田泰彰は、制作でウィーンに滞在していました。ウィーンもアーティスト・ラン・スペースが多い都市なので、そこで濱田が知り合ったおもしろい人たちを紹介してもらったりしています。いまのところ海外のアーティストは、知り合いの紹介がきっかけで展覧会に参加してもらうことが多いですね。ただ、国内のアーティストなのか、海外のアーティストなのかということを強く意識しているわけではないです。
清水 あと、いまはインスタグラムなどで、いろいろなアーティストと簡単につながることができるし、つながったうえで会いに行くことができるので、それで仲良くなった海外のアーティストも多いです。
小林 アートのプラットフォームのひとつとして、インスタグラムはとても重視しています。インスタグラムで作品を買いたいという人が国内外問わずに連絡をくれるわけですし。
──海外や国内といった枠組みを超えてアグレッシブに活動されている4649ですが、今後の展開について、それぞれどのようなビジョンを持っているのか、最後にお聞きできればと思います。
高見澤 海外、国内問わず、自分が紹介したいアーティストや、同世代のアーティストの展覧会をどんどん開いていきたいんですよね。将来的には、自分たちの周囲にいるアーティストたちの展示を、海外でやりたいです。
清水 展示を希望する海外のアーティストが、インスタグラムでよく連絡をくれます。そこでの交流をきっかけに、新たな展覧会が生まれることにもつながりますし、現に海外アーティストの日本での展示企画や、アーティスト・ラン・スペースとのエクスチェンジ企画もいくつか進行中です。今後も、そういった活動を積極的にやっていきたいですね。あと、高見澤と同じですが、海外で展示をやりたいです。
小林 最近、同世代によってアーティスト・ラン・スペースがいくつかできたことがすごく嬉しくて。昨年7月に村田冬美がオープンさせた清澄白河の「mumei」とは、7月から8月にかけてエクスチェンジプロジェクトとして「DOVE / かわいい人」(2019)という展覧会を開催しました。自分たちに新たなモチベーションを与えてくれるので、ほかのスペースとのつながりも増やしていきたいですね。