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INTERVIEW - 2019.8.6

意識はかたちになると信じてきた。彫刻家・コムロタカヒロ インタビュー

1980~90年代のアクションフィギュアやソフビ人形に影響を受け、デザインや構造の要素を吸収・再構成した彫刻作品を手がけてきたコムロタカヒロ。高さ2.5メートルの作品を中心に据え「立体曼荼羅」を思わせる空間を生み出している個展「Vortex」が、8月6日〜25日まで銀座蔦屋書店 GINZA ATRIUMにて開催中だ。彫刻を「自分だけの神話」と語るコムロに、これまでの活動と制作について話を聞いた。

聞き手・構成=中村志保 撮影=山添雄彦

アトリエでのコムロタカヒロ

彫刻が生む神話

━━コムロさんが手がける作品のツヤツヤとした表面はプラスチックやセラミックの素材を思わせますが、どの作品もよく見ると塗料の下にうっすらと木目が透けて見えます。これらの作品はどのように制作されているのでしょうか?

 今回の展示作品には2パターンの制作方法があります。ひとつは、何枚もの合板の積層でできていて中空になっています。だから同じトーンで木目が少し見えているんです。もうひとつは、無垢のカツラの木を使って彫り出していて、こちらは中空ではないのでかなり質量がある。ただ、どちらもCGで設計しています。今後はCGデータを軸に様々な素材に展開していくことを考えていて、今回は木材を使った第1弾と言えます。

Magic Dragon 2019 (c) コムロタカヒロ

━━制作の段階でCGを使う利点について教えてください。

 現実世界で彫刻をつくると、重力や素材の強度などあらゆる制約のなかで“できる範囲”のものになってしまって、どこか自分をセーブしている部分があります。それがCGを使って立体を想像しながらつくることで、いろんな制約から解放されて時間をかけてシミュレーションすることができるんです。極めて自由度の高い粘土のように操作することが可能で、頭の中にある像より忠実に再現できる。今回展示する高さ2.5メートルの《Magic dragon》も、はじめは3Dプリンターで30センチほどのミニチュアをつくりました。サイズの自由度が高いこともCGの利点ですね。

 でも、人を感動させるレベルに仕上げるにはやはり手作業でないと全然ダメです。ロボットの切削やプリントの技術も発達してきてはいるけれど、とくに合板を重ねた作品は階段状のようにガタガタした状態から手でゴリゴリと削って滑らかにしていく作業が必要です。さらに、塗装してヤスリをかけて塗装して……という工程を満足いくまで繰り返します。

アトリエでのコムロタカヒロ

━━《Magic dragon》は実際に2.5メートルの大きさで制作してみて、「思っていたのと違った」ということにはならなかったのですね。頭の中で作品をイメージするとき、どのサイズが基準となっているのでしょうか?

 そう、それが想定のイメージから120%くらいの高い純度で出てきてくれたんですよ! 制作していると大概は自分の想定内のものしかできないものなんですが、この《Magic dragon》はすべてを超えてくれて、自分でも感動しちゃいました(笑)。仲間に手伝ってもらって実際に組み立てたときは、本当に「神像」のような不思議なオーラを放っているように見えました。新しい体験でしたね。

 サイズに関していえば、フィギュアのようなものをつくることもあるんです。大きさには展示に適したサイズ、販売に適したサイズというのもあるし、それぞれの良さがあって見え方も異なる。ただ、僕が一番大事にしているのはやはり等身大ですね。フィギュアと実際の人間が並ぶと、人のほうが物理的な大きさとしても強いけれど、等身大となると作品がどんどんパワーを発し始めて、人と彫刻のパワーバランスが変化してくるんです。彫刻って、よく“対峙する”と言われるメディアですが、一対一で向き合うとか、人と対等であるとか、あるいはそれ以上の力を秘めていると思う。仏像やギリシャ彫刻などを見ていると、すごく強い力を感じるのにも似ているのではないか、と。

アトリエに並ぶ作品

━━先ほど「神像」という言葉が出てきましたが、コムロさんの作品は、オモチャのような愛らしいフォルムながら、妖怪、魔物、骸骨など、神秘的な要素を孕んでいますね。具体的に引用しているイメージやモチーフはありますか?

 幼少期に影響を受けたオモチャや、様々なイメージがミックスされていますね。『忍者タートルズ(ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ)』や『トランスフォーマー』をはじめ、怪獣のソフビや、姉が遊んでいたリカちゃん人形も密かに好きで(笑)。アニメも見ましたが、立体として“触れられる”ということはひとつ重要な点かもしれません。軟質の樹脂やツヤツヤとしたカラフルなプラスチック素材などには大きく影響を受けています。そういった意味では僕の作品にはサンプリングの要素もありますが、基本的にはそこからオリジナルへと昇華されていると思います。子供の頃に手にしたオモチャの感触に自分の精神的な支柱になるようなものを重ね合わせて、いまの作品になっていますから。自分だけの神話、とでもいえばいいでしょうか。

 オモチャ箱に雑多に入っていたキャラクターたちを使って自由に話をつくって遊んだみたいに、彫刻を中心にして新しいストーリーが生まれるといいな、と思うんです。宇宙みたいに無限に広がったり、増殖したりしながら。

作品の参考資料でもある魔法陣の図

​彫刻と「アブラカダブラ」

━━これまでの話から、コムロさんの制作はアニミズム的な考え方にも大いにつながっていそうですね。

 アニミズムもそうですが、宗教って興味深いな、と。宗教は美術にとっても極めて密接なテーマですが、人間とは切っても切り離せない観念ですよね。僕自身は特定の信仰があるわけではないですが、宗教、神様、神話、死後の世界……といったスピリチュアルなものに関心があります。人ってなんだろう?と考えたときにとてもよく表しているものだと思うから。これだけ資本主義やグローバル化社会が叫ばれて久しいのに、科学では証明できないことをいまだに人々は信じていて、科学と共存しているというのは不思議です。人の気持ちや心というのは、論理では語れない人間の想定を超えた何かというものが必要なんだろうなと思いますね。

 僕も制作をしていて、意識や思想、イメージなど、自分の頭の中で考えたり思ったりすることを念じ続けて行動に移せば実現する、と感じます。そう、「アブラカダブラ」という呪文がすごく好きなんですが、「我の言葉の通りに創造せよ」という意味があって。まさに意識をかたちにすることを求めて作品をつくっているので、そういうエネルギーが見る人に伝播していくと嬉しいですね。

━━古代の神話などをリソースに、フィギュア、CG、作品の表面に描かれた記号などデジタル的な要素……と、様々なもの組み合わされてまさに現代の偶像のようですね。立体である必要性がよくわかります。

 頭の中の世界から作品が眼前に出てきて、周囲の空間は現実だけど、彫刻の表面1枚を隔てた中空の部分は異世界だと思うんです。それは科学では解明できない世界であると同時に、僕の世界でもあります。かたちがなく理解不能なモヤモヤとした世界を、こうやって触れられる像として現出することで、ひとつの確かさになってくれる。そこに彫刻の魅力はあると思います。

Lily and Larah 2019 (c) コムロタカヒロ

━━今回の展示会場となるGINZA ATRIUMの空間ならではのアイデアや展示構成、見どころについてお聞かせください。

 高さ6メートル以上もあるGINZA ATRIUMの空間は圧巻です。そこに書棚が配置されていて、下部は商品が並んでいますが、上部には架空の本が並べられています。ファンタジーや魔法の世界、無限の図書館……といった雰囲気はすごく面白いですよね。当初は「魔法の図書館」のようなイメージで制作を進めていこうと思ったんですが、準備期間の1年ほどの間にいろいろと案を練っていくうちに、あまり場所に引っ張られすぎる必要もないかな、と冷静になってきて。そこで、作品が主体となって世界が広がっていく展示構成を考えました。

 今回展示する作品は全15体。高さ2.5メートルの作品を中心に据えた「立体曼荼羅」のようなイメージをしています。さらに、展覧会のタイトルは「Vortex」とつけました。「渦」や「渦巻き」という意味がありますが、「パワースポット」といったスピリチュアルな含意もあるワードで、彫刻作品を配置することでグルグルと空間が動き出すイメージにぴったりだと思っています。作品の間を歩きながら、彫刻の“魔法”にかかってもらえたら嬉しいです。