INTERVIEW - 2019.2.8

NHKが『AKIRA』を起用した理由とは? 東京再開発のドキュメンタリー『東京リボーン』の裏側に迫る

2018年12月23日より放送がスタートしたNHKスペシャルのシリーズ『東京リボーン』(全6回)。『AKIRA』を手がけたマンガ家・大友克洋がタイトル映像とデザイン監修を手がけ、『AKIRA』の世界観を取り込んだ番組は、放送開始前から大きな話題を集めた。NHKとAKIRAという異色のコラボレーションはどのようしにて生まれたのか? 番組制作者のひとりであるNHK・デザインセンターの森内大輔に聞いた。

NHKスペシャル『東京リボーン』より、東京駅丸の内口

ーーNHKスペシャル シリーズ『東京リボーン』の映像監修は『AKIRA』原作者の大友克洋さん、テーマ音楽は「芸能山城組」の作曲家・山城祥二さん、そして題字は劇画家・平田弘史さんが担当されています。彼らは当時『AKIRA』の作品制作に携わった面々ですね。まずはこのプロジェクトが生まれた経緯を教えてください。

 およそ1年前、この番組の制作陣から東京の再開発を取り上げるにあたりインパクトのあるOP(オープニング)映像が生み出せないか打診があり議論が始まりました。OP映像は導入としてテーマやハイライトをわかりやすくまとめたもので、番組に興味を惹きつける重要なパートです。どうすれば、新しく生まれ変わる東京やそこに生きる人々の姿を鮮やかに描けるか想像を膨らませました。

ーーなぜ『AKIRA』を採用したのですか?

 番組の内容と照らし合わせながらモチーフや手法をリサーチするなか、たどり着いたのが『AKIRA』です。作品の舞台が2019年の「ネオ東京」と呼ばれる街であることがきっかけでした。しかも、翌2020年に東京オリンピックを控え再開発が進む設定! また、世界大戦後の荒廃した巨大都市で若者たちが、自分たちの生きる道を探す内容は、社会構造の大きな変化を迎えているいまの状況とどこか重なります。このマンガの主人公である金田のバイクが現在の東京を駆け巡り、各所で起こる変貌ぶりを案内すれば、この番組を象徴化した演出ができると思いました。

NHKスペシャル『東京リボーン』より、首都高速道路

ーー『AKIRA』をNHKで使用することに難しさはありましたか?

 『AKIRA』の背景が番組の内容と似ているのに加え、大友作品には世界中にファンがいることに注目しました。作品の公開から30年以上経ったいまでも各地で展覧会やイベントが催され、米国の超人気ラッパー、カニエ・ウェストも自身の創作に最も影響を受けたアーティストに大友克洋を挙げています。感度が高い、だけどNHKを見ない層へ番組を届けられることも企画に織り交ぜ関係者へ諮りました。

 かく言う私もアニメ公開時に新宿の映画館で洗礼を浴び、その影響でビッグスクーターに乗っていた大友教の信者です。我を忘れ前のめりでプレゼンをしましたが、ディレクターや編集マンなど、『ヤングマガジン』掲載当時、直接作品に触れていた“大友チルドレン”も多く、チーム内でも方向性が一致することになりました。

NHKスペシャル『東京リボーン』より、金田らしき人物

ーーキャスティングは順調にいきましたか?

 内部の合意が取れた後は、本丸の大友さんです。お忙しい方なのでコンタクトが難しいという噂を耳にしながら、どうすればお目にかかれるのかいろいろ探っていた矢先、アニメプロデューサーの竹内宏彰さんを介して特別に面会することになりました。映像作家のTAKCOMと具体化したイメージスケッチを手に、コンセプトを説明したところ「このような表現で描写されるのであれば見てみたい」と、ご協力を快諾いただきました。マンガ版の出版元である講談社のみなさんのご理解にも恵まれ、実現の運びへと至ったわけです。

大友克洋

ーー山城祥二さんや平田弘史さんなど、当時のチームを起用した理由は?

 『AKIRA』の世界観やキャラクターを表層的にさらうだけでは、作品を知る人にも知らない人にも本来の魅力が伝わりにくいと考え、当時の作品に参加されていたお二人にお声がけしました。

 山城さんはアニメ版『AKIRA』のテーマ音楽を担当された方です。「30年前に映画 『AKIRA』をつくるときに想像していた未来の世界に、現在の東京があまりにも接近してて驚いている。当時の音楽がいまの東京の風景や感覚と一致していることが感慨深い」とご賛同くださり、劇版の音源を惜しみなく提供していただきました。

山城祥二

 「東京リボーン」の題字をお願いした平田さんは大友さんが敬愛されている劇画家のひとりでマンガに使われていた「アキラ」という字を書かれた方です。80歳を越え、身体が思うよう動かないにもかかわらず、ご家族の協力もあって参加いただくことができました。伊豆のご自宅でものすごい気迫と共に筆を握り、ご自身が納得いくまで何十枚も書いておられた姿はとても神々しかったです。

平田弘史

ーーOP映像の制作上、気にかけた点はありますか?

 30年前に映像化された『AKIRA』は鮮烈な印象をもたらし、私たちに影響を与え続けています。あまりに偉大なその世界観をなぞっただけでは、陳腐な真似事になってしまう。そうならないように当時とは異なる現代的なエッセンスや技術を取り入れた表現を目指しました。

 ポイントは4K解像度のCGで再現された東京へ実際に取材したデータや撮影した風景をオーバーラップさせ、仮想世界と現実世界の境界が溶け合う未来的な“東京像”を描き出すことです。この制作にあたり関連会社のNHKアートを中心に特別なチームをつくりました。CADセンターの23区すべての建物をモデル化した3次元都市を基盤に、精緻なテクスチャやモデリングなどによるフォトリアリスティックな表現の追究をワイドワイヤードワークスの今村理人さんとAnimationCafeの遠藤基次さんに担っていただきました。

3Dモデル化された東京の街とバイク

ーーグラフィック・デザインも特徴的です。

 都市のあらゆる情報が高密度で集積されているのが東京らしさのひとつなので、それが伝わるようカット毎に細かな情報を詰め込んでいます。土地や建物のスペックが空間に出現するのですが、こちらのモーション・グラフィックはlikiの石志哲郎さんにお願いしました。作成したイメージはコラージュアーティストの河村康輔さんに再構成してもらい、デジタル・サイネージとしました。

 このようなかたちで、異なる領域、フォーマットのデータをひとつの映像や画像としてまとめるのが最も苦労した点です。今回のチームワークなしでは実現できなかったと思います。

NHKスペシャル『東京リボーン』より、浅草から臨むスカイツリー

ーー番組を見て、大友さんの反応はいかがでしたか?

 あの『AKIRA』の一部をお借りするわけですから、進捗チェックの際はド緊張で臨みました。試写版を小さなノートブックでご覧いただいたのですが、バイクのエイジングやカメラアングルなど、たった1度の再生でカット毎のアラを的確に指摘される大友さんの集中力と目の精度に驚きました。マンガやイラストから感じていた印象そのままの専門性に畏れ多いと思いつつ心から感動しました

ーー最後に、このシリーズで伝えていきたいことをお聞かせください。

 大友さんが「前回の東京オリンピックって、本当に美しかったのよ。でも、これからの東京は昭和の名残を全部捨てて、新しい東京を、新しい人たちが創っていくべきだと思う」と仰っていました。大友作品に触れた私たちがそうであったように、『東京リボーン』がなんらかの刺激や発見を次世代の方々にもたらし、それが新たな東京の物語を紡ぐ映像や音楽の種となればこんなに嬉しいことはありません。

 現在、東京23区で行われている大規模開発プロジェクトの数は300を越えます。先進国のトップを切って超高齢化や低成長に直面する日本。その首都・東京で進む大改造にいったいどういう未来が待っているのか。かつて『AKIRA』で描かれた未来都市ーーネオ東京が現実のものになろうとしているなか、それを考えるひとつのきっかけになることを願っています。次回、第2集は拡大を続ける東京の地下世界がテーマ。人知れず進む“地下空間の進化”をどうぞお見逃しなく!

NHKスペシャル『東京リボーン』より、仮想と現実が溶け合う東京のイメージ