2013年にスタートし、今回で第4回目の開催となる「LUMINE meets ART AWARD 2016」。今回は応募総数480点から、織晴美、住田衣里、akatin、照屋美優、安藤充、持田寛太の作品が受賞した。この6名と、本アワードのメインビジュアルも手がけた井口皓太(TYMOTE代表、CEKAI代表)が、ルミネ新宿、ルミネエスト新宿内の各所で作品を展示している。
いま、ここにいることの美しさ 織晴美《I am Here @ Lumine》
ショーウィンドウのなかでオレンジ色の鮮やかな光を放つ群像。グランプリ(「ウィンドウ部門」)の織晴美は、女子美術大学を卒業後、広告代理店でグラフィックデザイナーとして働き、1999年にニューヨークのスクール・オブ・ビジュアルアーツで彫刻を学ぶために渡米した経歴の持ち主。現在もニューヨークでイラストレーター、アーティストとして活動している。今回受賞した《I am Here》シリーズは、アーティスト自身がいた特定の場所、特定の時間を切り取り、彫刻空間として再現するもので、2002年から継続的に取り組んできた。このシリーズは、「ぼくがここにいるとき ほかのどんなものも ぼくにかさなって ここにいることはできない」で始まる詩人・まどみちおの詩『ぼくが ここに』からインスパイアされており、「いま、ここにいることの奇跡のような美しさを表現した」と織は語る。
本作の制作期間は3か月。工事現場などで使われるプラスチックメッシュでできており、その独特な色彩は「セーフティ・オレンジ」とも呼ばれている。「現代的な色で、反射の暖かさがある(クラフトにならない)」ことがポイントだという。人のシルエットにも特徴が出ると話す織。会場となるルミネでとらえた一瞬を、ルミネで再現する試みが面白い。
人々の本能を映す、美しい獣たち 住田衣里《Hunters》
準グランプリ(「インスタレーション部門」)に選出された住田衣里は、インスタレーション作品《Hunters》を発表。3年ほど前から取り組んでいるというこのシリーズは、ハイヒールのヒール部分が動物の脚となっている立体作品だ。人間の内なる感情や本能をテーマに作品を制作しているという住田は、本作の背景には「社会に対して憤りを感じ、ハイヒールを投げた女性がもう片方の靴を見ると、ヒールが獣の脚になっていた」という物語があると語る。新作となる翼の生えたハイヒールを加えて構成された、獲物を取り囲む「ハンター」たちの様子は、日々を彩る「何か」を探し求めてファッションビルに集う人々の姿にも重なる。
カメレオンのギャルが踊る、カオスな祝祭 akatin《でぃすこ》
「ルミネ賞」を受賞したakatin(アカチン)は、ルミネのウィンドウ内に、「ディスコ」をテーマにした摩訶不思議な世界を出現させた。金屏風をイメージしたきらびやかな空間では、日本人形に使われる桐塑や羊毛といった特徴的な素材を用いて制作された「カメレオンの顔を持つボディコンギャル」が踊る。バブル時代のカルチャーや浮世絵を連想させる錦鯉、仏教のモチーフである「阿吽」など、様々な時代の要素を入れ込み、様々な人やモノが集う「お祭りのような場所」新宿を彩る作品だ。
見る人を包む温もりと物語 照屋美優《Imaginary Landscape》
「エレベーター部門」で入賞した照屋美優は、色鉛筆による抽象作品を手がけている。小品を組み合わせて構成したという本作は、描き進めながら雨粒や月、太陽など自然のモチーフにイメージを重ねるようにして制作された。日頃から「作品の中に入り込むような気持ち」で描くという照屋は、これまでも作品を拡大印刷したり、空間に溶け込ませるように展示して、その感覚を再現してきた。エレベーターでの展示で目指したのは「癒しの空間」。手描きの風合いを活かし、温かく優しい雰囲気の空間に仕上げている。
都会に出現した山水画 安藤充《Algorithmic SANSUI》
同じく「エレベーター部門」で入賞した安藤充がテーマとするのは「ネイチャーアルゴリズム」。古代中国の絵師、あるいはそこから影響を受けた琳派が描いてきた山水画を根底に置いている。先人たちの、自然の持つリズムを筆の流れやタッチ、顔料の滲みなどで表現する考えを発展させてきた安藤。「水が流れる」「木が育つ」といったドラマティックな変化の流れをリズミカルに捉え、アクリル絵具と油絵具によって、独特の色彩で描いている。110×80センチメートルの作品を4つ組み合わせて拡大させ、エレベーターを彩った今回は、ルミネという場所柄、「人」も要素として意識したという。
宇宙と食をダイナミックに合成 持田寛太《飯循環》
館内外のデジタルサイネージに展示される「映像部門」で入賞した持田寛太は映像作家として活動、実写や3DCGなどを手がける。ビッグバン以降、膨張を続けてきた宇宙と、その収縮などをテーマにする本作では、ラーメン鉢にように普段から見慣れた食器や食材が、宇宙空間を遊泳するかのようにダイナミックに動いている。「新宿という雑踏のなかで、いかにサイネージによって足を止めてもらえるか」を意識したと話す持田。音がないぶん、キャッチーな、ゲームのようなつくりを目指したのだという。広告に混じって突如として現れる食の小宇宙に注目だ。
また、ゲストアーティストで審査員も務めた井口皓太も、デジタルサイネージで映像作品《Motion Textile_1sec》を発表。時間軸をもつという映像表現の特徴から発想し、「1秒」に着目して制作されたモノクロのアニメーション作品を展示している。
日本でもっとも多くの人々が集まる場所「新宿」に建つルミネ。このファッションビルに溶け込んだアートたちは、行き交う人々にどういう変化をもたらすだろうか。ファッションとアートの融合をお見逃しなく。
なお、今回審査員を務めたのは、井口のほか、尾形真理子(コピーライター、シニアディレクター、『広告』編集長)、小池博史(イメージソース代表)、小山登美夫(小山登美夫ギャラリー代表)、堀元彰(東京オペラシティアートギャラリーチーフ・キュレーター)、岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)、戸塚憲太郎(hpgrp GALLERYディレクター)。展示は2月1日まで開催されている。