2016.5.31

上田麗奈と藤ちょこ先生のデジタルペイント講座⑤ 背景編

初心者にもやさしい直感的な操作が可能な多機能・低価格のペイントソフトとして、多くのクリエイターから支持を得ているペイントソフト「openCanvas」。その魅力を、同ソフトのメインアートワークを手がけた人気イラストレーター・藤ちょこさんが、声優の上田麗奈に教える連載です。デジタルイラストの制作はまったく初めての上田ですが、次々にわき上がってくるイメージを形にするべく、藤ちょこ先生の指導で「openCanvas」の様々な機能を使いこなしていきます。今回は、過去4回の講座で描いた少女像(いもちゃん改め、コスモちゃん)に背景を描いていきます。

「openCanvas」でデジタルペイントに挑戦する上田麗奈
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「1点透視」の背景に挑戦

藤ちょこ(以下、藤):今日はキャラクターの背景を描きます。

上田麗奈(以下、上田):背景を描くのに、どんなパターンがあるんですか?

藤:「1点透視」「2点透視」「3点透視」というのがあります。1点透視はいちばんシンプルな構図ですね。ひとつの消失点にパース線が集まっていくものです。2点透視はマンガなどでよく使われるパターンで、消失点が2つになるんです。建物などを斜めの方向から見る場合などですね。3点透視は、さらにその応用で消失点が3つになります。下からビルを見上げるシチュエーションなど、迫力のある構図になります。

1点の消失点に向かってパース線を引く、「1点透視図法」の例。画面に奥行きが生まれる

上田:へえぇ〜〜、じゃあ、3点透視ですかね?

藤:えぇ⁉︎ いきなり難易度の高い3点透視!

開発チーム(以下、開発):上田さん、攻めますね。

藤:今回の人物像は正面から描いているので、背景は1点透視か2点透視が向いていると思います。人物と背景を切り離して考えることもできますが......。

上田:なるほど。いろんな可能性が広がりますね〜。

開発:最初の頃は学校に通っている設定だったのが、いまや宇宙にまで世界観が広がりましたね。

透視図法の説明をする藤ちょこ先生。ときには手書きの図で説明することも

上田:うーん、いま考えているイメージだと、制服がなくなって顔だけになっちゃいそう......。顔がどーんって。シャボン玉が浮かんでいて、シャボン玉とコスモちゃんはぜんぜん別の空間で......。

藤:?? 上田さんの思い描いているイメージがちょっとつかめないので、新規レイヤー上に、背景のイメージを大まかに描き込んでみてもらえますか?

上田:はーい。

藤ちょこ先生や他のスタッフにイメージを伝えるため、上田が描いた背景のラフ案は下記の3つ。第1案は、画面を大胆にトリミングし、大きなシャボン玉が頭部に連なったようなイメージ。その場にいたスタッフは誰もその完成形を想像できず......。そこでさらに、コスモちゃんに羽根を生やした第2案、森の木々の中にいる設定の第3案が生まれました。

上田の脳内アウトプット3案。残念ながら第1案は藤ちょこ先生でも理解できず。描きながらの上田の説明は「ふわーって、ふわーって、なって。なんかこんな!」

藤:3つ目の案でなんとなくイメージがつかめました。コスモちゃんが暗い森の中にいて、その周辺に光るシャボン玉が浮いているような感じでどうでしょう? これだと「1点透視」が自然かと思います。

上田:はい、それでいきます。どういう手順で描いていきますか?

藤:建物などを描く場合は、パース線を描くところから始めます。今回は1点透視で、かつ樹木などの自然物なので、ざっくりとラフを描いて、人物を描いたときと同じようにレイヤーを重ねて細かく描きこんでいきましょう。手前の木は太く大きく、奥のほうの木は細く小さく描いていけば、透視図法の奥行きが出てきます。

上田:わかりました![ラフの線を描く]

背景イメージ案で、藤ちょこ先生をはじめ一同の不安を煽った上田。案が確定すると、迷うことなく背景のラフを描き出した。数分描いただけで、早くも暗闇に木々が立ち並ぶ風景が見えてきた

開発:上田さん、作業が早いですね。なんだかもうラフの線だけで、森の雰囲気が出てきてますよ。

色の明暗で遠近感を出す

藤:夜の森という設定も、描き方がいくつか考えられますよね。たとえば、月明かりを想定して木のシルエットを黒で描いて、後ろのほうを明るくするとか。今回は、光るシャボン玉を人物の周囲に描くので、手前が明るくて、奥に向かって段々と木が闇に溶けていくような、ちょっと神秘的な雰囲気が出せるといいですよね。

上田:そうですねぇ。

藤:そうしたら、ペンの色は青系が良いかもしれません。お手本に、別のレイヤーに少し描いてみますね。[上田と操作を代わる]まず、こんな感じで大まかに木の幹を描いて、細めのペン先で表面の木肌の質感を入れていきます。手前の木を描くときに明るい色を多めにすると、自然な奥行きが出てきます。

上田:へぇ〜。すごーい。[操作に戻り、手前の木から描きこんでいく]

人物の作画で要領を得た上田。レイヤーを重ね、ペン先の太さや色を変えながら、器用に木を描いていく

藤:木の1本1本についても同じです。幹の真ん中がいちばん手前に出てくるので、その部分を明るくします。

上田:あ、それ、美術の先生が言ってました。

立体感を出すために木のどの部分を明るく描くべきか、身近にあるペットボトルで説明する藤ちょこ先生

開発:あんまり描きこんじゃうと、のちのち大変になっちゃうんじゃないですか?

藤:描きこんだものほど手前にあるように見えてくるので、奥の木に向かうにしたがって徐々に描き込みを少なくしていけば大丈夫ですよ。奥のほうほど作業は楽になるはず。

上田:先生、これ、あとどのぐらいやれば良いですか?

藤:じゃあ、いったん、葉っぱの部分も描いてみましょうか。明るい緑で光の当たっている葉っぱを描いて、黒っぽい緑で影になっている葉っぱを描きます。[上田と操作を代わる]こんな感じで描くと、木の上のほうに葉っぱが茂っているように見えてきます。同じ要領で、足元に生えている草を描いていくと、より森らしくなってきますね。

上田:すごーい。勉強になるー。

上田:[藤ちょこ先生のお手本を参考に、木の葉や茂みの描き込む。しばし沈黙ののちに]ふぅーーーっ、疲れたぁ。

藤:あ、ここでまた忘れずにファイルを保存しておいてくださいね。あとは、幹からさらに細い枝を生やしていって、濃いめの色で木の幹の表面の凸凹を描きたすと、よりリアルな感じになってきます。葉っぱもバランスを見ながら描き足していってください。たとえば木の輪郭線にすっと濃い色で影を入れると、幹の輪郭が締まって、その木が手前に出てきます。

上田:本当だー。

開発:印象がグッと変わりましたね。初めて描いたとは思えない、雰囲気のある森ができました。ちょっと、おどろおどろしいですが(笑)。

藤:うん、良い感じですね。出会ってはいけないものに出会ってしまった感じがする(笑)。では、第5回はここまでで。第6回で、コスモちゃんの周りに浮遊する光るシャボン玉を描いてみましょう。

上田:はーい。藤ちょこ先生、今日もありがとうございました。

第5回の講座内容を上田麗奈が動画でおさらい!

第5回「背景編」のイベントファイルを早回しで再生しながら、上田麗奈と藤ちょこ先生が、おさらいします。

上田麗奈と藤ちょこ先生のデジタルペイント講座【第5回】色を塗ってみよう!<背景編> https://youtu.be/QPPhlrteE9E
@fuzichocohttp://fuzichoco.com
ペイントソフト openCanvas パッケージ版