新海誠、デビューから15年の軌跡をたどる展覧会
昨年公開の劇場アニメーション『君の名は。』の大ヒットで、一躍時の人となった新海誠。その15年に及ぶ創作を、主要6作品の原画、資料、映像など約450点を通じて振り返る展覧会が、静岡県の大岡信ことば館で開催中だ。
新海作品の制作上の特徴に、ヴィデオコンテと最終的な撮影処理を本人自らも手がける点が挙げられる。ヴィデオコンテとは、絵コンテを時間軸に並べてムービーにしたもので、新海は仮の声や音楽、効果音などをつけて徹底的に吟味するため、映像体験において重要なテンポやリズムは、この時点ですでに理想形が示されている。それを踏まえて、アニメーターらは各カットを具体的に造形化していき、最後にエフェクトや光源を加える撮影処理を再び新海と撮影チームが担うことで、あの詩情豊かな作品世界が完成されるというわけだ。
展覧会にあわせて刊行される図録には、商業デビュー作である『ほしのこえ』から最新作『君の名は。』までの各作品に関わった主要スタッフのインタビューが収録されている。その中で多くの人が、新海作品の現場における「個々のアイデアや表現が尊重される自由」と「監督の手によって映像が完成される安心と驚き」について証言しているが、作品の入口と出口をコントロールすることで自身の作家性を担保しながら、作品に関わる人々の個性も尊重するバランス感覚こそが、新海誠という映像作家のもっとも特筆すべき資質だろう。
展覧会は、その制作過程に迫る資料、風景描写の映像展示、新海作品の特徴のひとつでもある言葉の展示などで構成されている。今後、新海の生まれ故郷・長野県の小海町高原美術館、そして東京の国立新美術館でも開催され、さらに全国へと巡回する。アニメやマンガを手がけるクリエイターの大規模個展が国立美術館で行われるのは、1990年の「手塚治虫展」以来だというから、新海への注目度の高さ、芸術文化を取り巻く時代の変化を肌で感じるエポックメイキングな出来事だ。同時にそれは、2000年代初頭から現在に至る、日本のアニメーション制作の小史を振り返る機会ともなるだろう。
(『美術手帖』2017年7月号「INFORMATION」より)