やはり強い、オールドマスター
今年見事に1位の座に輝いたのは、国立新美術館で開催された「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」の66万7897人だ。同館は昨年も「ルーヴル美術館展 日常を描く」で同様の約66万人を記録。
また、14年にも「オルセー美術館展」で約69万人の入場者数を記録するなど、立て続けに大きな数字を打ち出している。今回、1位になった「ルノワール展」は、根強いルノワール、あるいは印象派人気を基盤に、代表作である《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》(1876)が初来日したことが動員につながった。このほかにも《田舎のダンス》(1883)と《都会のダンス》(1883)が45年ぶりに揃っての来日となるなど、注目を集める要素が多かったのも要因だろう。なお、国立新美術館ではこのほか「ダリ展」が38万8557人を記録。来年は、草間彌生展やミュシャ展など開催前から話題をさらう企画展が予定されており、どれだけの来場者を集めるのか、気になるところだ。
また、国立西洋美術館の「日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展」も39万4006人と、多くの動員を集めた。同展はカラヴァッジョの作品11点と、彼の継承者である「カラヴァジェスキ」たちの作品、あわせて51作品を展示したもの。開幕直前に《法悦のマグダラのマリア》(1606)がカラヴァッジョの真筆と判明し、同展が世界初公開の機会となるなど、話題に事欠かなかった。
昨年、東京都美術館で開催され、約76万人という記録的な数字を生んだ「モネ展」は今年京都市美術館に巡回。京都会場でも30万人を記録したことは、モネの変わらぬ人気を裏付けている。
にわかに巻き起こった"若冲フィーバー"
今年、もっとも印象に残ったという意味では、東京都美術館の「若冲展」を置いてほかにないだろう。会期は4月22日から5月24日までという、わずか1か月間にもかかわらず、44万6242人という驚異的な数字をたたき出した。開幕直後は平穏だった同展だが、じょじょに火が点きはじめ、会期中盤の5月18日には最大で5時間超の入場待ち時間を記録。美術館も行列の熱中症対策に乗り出すなど、異例ずくめの展覧会となった。生誕300年の記念の年かつ、東京初の大規模展というだけでなく、若冲を代表する《釈迦三尊像》3幅と《動植綵絵》30幅が一堂に会するものとして、マスメディアにも多く取り上げられたことも要因だが、「行列が行列を呼んだ」ことがこの数字につながった。
若冲は故郷・京都でももちろん人気だ。京都市美術館の「生誕300年 若冲の京都 KYOTOの若冲」では22万4812人を記録。《象と鯨図屏風》(1795)や《樹花鳥獣図屏風》(18世紀後半)など100点を超える作品が、若冲研究の第一人者・狩野博幸監修のもと並んだ。東京と京都、誰もが予期しなかった、まさに"若冲フィーバー"だったといえる。
現代美術は村上隆が牽引
数字としては控えめな現代美術だが、今年は村上隆がこれを牽引した。昨年10月から今年3月にかけ森美術館で開催された「村上隆の五百羅漢図展」では、31万5271人を記録。村上にとって、日本国内では14年ぶりの美術館個展となった同展では、12年にカタール・ドーハの「Murakami - Ego」展で初公開された全長100メートルにおよぶ《五百羅漢図》(2012)が日本で初公開されたほか、絵画・彫刻など約50点のほぼすべてが新作かつ日本初公開というこれまでにない規模の個展となった。
また、横浜美術館で開催された「村上隆のスーパーフラット・コレクション展」では6万5000人を記録。村上自身の作品ではなく、村上がこれまで蒐集してきた古今東西の作品が一堂に介した展覧会として、コアなファンを中心に話題を呼んだ。また同展では444ページにおよぶ巨大なカタログも、その値段と度重なる発売日延期で注目を浴びた。なお、村上は17年に十和田市現代美術館で同じく自身のコレクションを展覧する「村上隆のスーパーフラット現代陶芸考」を開催予定となっている。