アート鑑賞の強力なお供となる最新指南書ベスト10

今回は、アート鑑賞初心者を中心にオススメのアート本10冊をピックアップ。2024年度上半期に出版された新刊から、鑑賞力を高めたり、視野を広げてくれたりする良書をご紹介。

文=齋藤久嗣

1. 『めちゃくちゃわかるよ!印象派 山田五郎 オトナの教養講座』山田五郎著(ダイヤモンド社)

 タレントやコラムニスト、評論家など、マルチに活躍を続ける山田五郎さんは、近年YouTuberとしても頭角を表しています。それが、アート分野でダントツの数字となる60万人以上の登録者数を誇る人気YouTube番組『山田五郎 オトナの教養講座』です。

 現在、250本以上の動画がアップされていますが、本書はそのなかから特に人気の高い「印象派」を特集した回を紙上で文字起こしし、再編集を加えた書籍化企画です。この夏発売されたばかりですが、早くも各書店では平積みや面陳列され、売れ行きは絶好調のようです。

 早速読んでみましたが、抜群の面白さでした。モネやルノワール、ドガといった印象派を中心に、ターナーやコロー、ゴッホ、ゴーギャンなど、印象派の前後の時代に活躍した画家を含め総勢18名を各章でそれぞれ取り上げ、YouTube同様、山田さんとアシスタントの対談形式でまとめられています。

 とくに素晴らしいのが、それぞれの画家の個性やエピソードを通俗的な庶民感覚と結びつけて語る山田さんの絶妙な言語感覚です。例えば、大家族を絵筆1本で支えたモネを「アート界のビッグダディ」、ロマン主義から印象派風まで、生涯で画風を革新し続けたターナーを「美術界のビートルズ」と評するなど、山田五郎ワールド全開の語り口は、活字にするとインパクト倍増です。

 気軽に雑談をしているようなライトな雰囲気でまとめられていますが、図版の量や脚注、索引なども充実。初心者はもちろん、中級者以上でも新しい学びが得られる1冊に仕上がっています。

2. 『イラストで読む ヨーロッパの王家の物語と絵画』杉全美帆子著(河出書房新社)

 上述した山田五郎さん同様、初心者に寄り添いながらも、独自の感性でアートを紐解くのが、シリーズ累計10万部超のヒット作「イラストで読む~」シリーズで知られる杉全美帆子さんです。シリーズ8冊目となる最新刊は、歴史上ヨーロッパがもっとも華やかだった16世紀~18世紀頃を代表するロイヤル・ファミリーと絵画を特集した1冊となりました。

 クラシカルな西洋絵画を読み解くためには、よく聖書やギリシャ神話の知識が欠かせないと言われますが、近世ヨーロッパ王家のファミリー・ヒストリーや、それらに関連する歴史背景も同じくらい重要です。王家を軸とした当時の政治・社会事情が、画家の表現にも大きな影響を及ぼしているからです。ですが、西洋美術史とヨーロッパ宮廷の歴史を絡めながら、初心者向けに解説した本はあまりなく、そういう意味でとても画期的な1冊となりました。

 本書は全3章に分かれ、スペイン・ドイツに君臨したハプスブルク家、個性派キャラクターが目白押しのイギリス・テューダー朝、絶対王政から革命へと至るフランス最盛期に君臨したブルボン朝をそれぞれ各章で掘り下げています。

 読み進めるうちに、王族たちの波乱に満ちた人生や恐るべき人間模様を、数々の肖像画・名画とともに楽しみながら学べました。約130ページのコンパクトな本ですが、熱量たっぷりのイラストと豊富な情報量で、非常に満足感の高い読後感が得られます。著者が「過去8冊のなかで、一番時間がかかって苦労した」と語るだけあり、個人的にはシリーズ最高傑作だと思います。

3. 『パリ 華の都の物語』池上英洋著(筑摩書房)

 オリンピック期間中にぴったりな1冊が、旺盛な著作活動で知られる美術史家・池上英洋さんの最新刊は『パリ 華の都の物語』です。本書は、古代ローマの植民都市だった時代から、21世紀の現代に至るまで、2000年以上に及ぶパリの歴史を、主に文化・芸術面から深堀し、都市としてのパリの魅力を縦横無尽に語り尽くします。

 驚いたのは、新書の常識を覆すような、数百点の写真と図版がフルカラーで掲載されていたことです。まるで大学の授業を聴いているような優しい語り口でパリの歴史を時系列順にたどりつつ、パリを中心としたイル=ド=フランス地域をたどり、各時代に制作された建築や芸術作品を紹介。読み進めるうちに、いつしかパリを時間旅行しているような気分も味わえました。

 池上さんはイタリア・ルネサンスを中心に、西洋美術全般に通じた専門家ですが、ここ数年は博覧強記ぶりに拍車がかかり、さらに記述内容に深みが増しているように感じます。決して初心者を置き去りにしない丁寧で平易な文体はそのままに、美術史の流れだけでなく、社会や経済、生活文化全般にまで幅広く言及しながら、学際的に美術を掘り下げるスタイルが定着。近刊はどれも教養書として読み応えのある力作揃いです。

 なお、事実上の姉妹作のようなかたちで、ほぼ同時期に出版された『フランス 26の街の物語』(光文社)もオススメ。フランス全土に広がる26の街を著者が訪ね歩き、池上さんならではの観点で観光大国・フランスの芸術や歴史を語り下ろした良作です。

4. 『「アート」を知ると「世界」が読める』山中俊之著(幻冬舎)

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