パンデミックからの復興計画として、フランス文化省が2021年から導入したアーティストによる創造的活動を支援するプログラム「モンド・ヌーヴォー」(「いくつもの新しい世界」の意)。政府によるアーティストへの受注制作であり、フランス版「ニューディール」政策とも言われる。導入時に発表された予算は3000万ユーロ(現在のユーロ・円換算で約48億円)。反響は大きく、同年夏の公募には3200もの企画提案があった。
成果発表は、翌2022年から今年の夏までに予定されていたが、430人のアーティストによる264もの採択事業の多くは準備調査から制作の過程で時間を要し、現時点で未発表のものもある。昨年秋に行われた2023年度文化予算の記者会見で、リマ・アブドゥル=マラク文化大臣はこの事業を25年まで継続する意向を示していた。いっぽう、国の広報が後手になったことでの認知度の低さや、成果物を発表する各地方自治体での普及体制を指摘する声などから、継続はまだ確実ではないと思われている節があった。そして今年9月27日、2024年度文化予算(*)の記者会見で、同事業を改めて25年度まで継続することが明らかになった。導入時と同額を確保し、2023年から2025年までの3年間、年に1000万ユーロ(約16億円)ずつ執行する予定だ。
応募要項と選考過程
2021年夏の公募では、対象をフランス人かフランスを拠点とする視覚芸術から舞台芸術、音楽、文学、応用美術まであらゆる分野のアーティストとし、企画提案する作品は「私たちの新しい世界の在り方とそこに住まう方法を表現するもの」としている。パンデミックで失われた国の活力を取り戻すためにアーティストの制作とその発表機会を提供するものとし、応募者が望めば、海外領土を含むフランス全土にあるフランス文化財センターが運営する遺産や、沿岸地域の自然保護を目的とする沿岸管理局の所有する施設との協働も可能としていた。
ポンピドゥー・センター国立近代美術館の元館長ベルナール・ブリステンが委員長を務める「芸術委員会」には、選考と制作時のサポートを兼務する専門家8名が集結。選考結果を見ると、アートの分野や対象とする地域のバランスだけでなく、文化省が力を入れる分野──気候変動に対するアクション、若年層への教育普及(とくにフランス語文化や読書の促進など)、地方自治体との連携、移民や植民地に関する歴史や宗教観の違いの再考、先端技術の積極的な活用、ひいてはそれらによってフランスにおける芸術文化の創造の豊かさをグローカルに再発信する力を強化すること──についても考慮されているように見える。