原爆開発をre-Imagine(再考)する
7月下旬にアメリカでクリストファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』が公開されると、その主な舞台となるニューメキシコ州ではにわかにロケ地巡礼の観光客が増加し、年に2度の一般公開を控えたトリニティー・サイトのウェブサイトでは、10月21日の公開日を前に混雑を予測する注意勧告が示されるほどだ。サンタフェ市内ではこの夏3館で上映され、そのうちのひとつCCA(現代アートセンター)サンタフェでは、公開に合わせてメリデル・ルーベンスタイン 「クリティカル・マス」展が開催された。
「クリティカル・マス」は、政府の助成金(NEA Inter-Arts grant)を受けて1989年から1993年にかけ、サンタフェ在住で写真を主なメディアとして活動しているアーティストの、メリデル・ルーベンスタインが、詩人でパフォーマンスアーティストのエレン・ツヴァイクと制作したコラボレーションのプロジェクトである。ルーベンスタインのパラジウム写真とツヴァイクの言葉、そこにスタイナ&ウッディ・ヴァスルカの技術サポートを得て制作した映像、オブジェなどを組み合わせたインスタレーションを含む、30余点の作品群で構成されている。1993年に開催されたニューメキシコ美術館での展示を皮切りに、MITリスト視覚芸術センター、シカゴ現代写真美術館を巡回し、当時のアメリカの美術界に衝撃を与えたという。
「クリティカル・マス」展、30年を経ての帰還
本稿では、初展示から30年を経た2023年、シリーズのうち20点あまりが展示されたこの「クリティカル・マス」展について紹介し、その意義を考えてみたい。
「クリティカル・マス」とは、核分裂連鎖反応を引き起こすための最小の物質量、つまり「臨界質量」を指す言葉である。サンフランシスコ州立大学でともに教鞭を執っていたルーベンスタインとツヴァイクは、この地で秘密裏に展開された、原爆の開発にまつわる思考や事象を検証するための手がかりを集め、写真や映像に収めた断片を様々な編成で再構築し提示した。
プロジェクト初期の作品《3つのミサイル》(1989-91)においては、男根的なミサイルと空、大地、空隙に横たわる裸の女性、細かな光が射し込む農場建屋など、原爆開発によって傷つき汚される象徴的なものが組み合わされており、比較的ストレートな反戦メッセージが読み取れる。が、のちの作品の多くは、原爆を取り巻く人や物、場所をモノトーンで撮影したイメージを組み合わせ、少しずつ、行きつ戻りつを繰り返し、既存の語り口とは別の角度で原爆の物語を叙述している。