「死の島」をなぜモチーフにしたのか
『君たちはどう生きるか』のクライマックスのひとつである「お墓」のシーンは、19世紀に活躍したスイス出身の画家、アルノルト・ベックリンの《死の島》をモチーフにしていると解釈されている。《死の島》は、前作『風立ちぬ』において、そのものとして作中に登場している(軽井沢の建物の中に飾られている)。
《死の島》というタイトルの絵をベックリンは五枚描いたが、そのうちの三枚目は、アドルフ・ヒトラーが入手し、執務室に飾っていたと言われる。つまり、ファシズムや戦争を強く連想させる絵画である。
宮﨑駿は、なぜこの絵を作品に登場させたり、自作の重要な箇所のモチーフに使ったのだろうか?
その答えのひとつは、『君たちはどう生きるか』および前作『風立ちぬ』は、これから先、暗い戦争と破局の時代、軍国主義の時代に入るという確信のもと、その時代を「どう生きるか」を教えるために作られた作品だ、ということである。