ドイツ、ベルリンに拠点を置くコンスタンチン・グルチッチ。1991年の独立から30年以上、ヴィトラ、カッシーナ、フロス、マジス、スマートなど、世界各国の様々なメーカーで唯一無二のデザインを生み出し続けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)やポンピドゥーセンターなどのコレクションに収蔵されているものも多い。一過性のトレンドにのらず、スタイルに固執もしない。機能を追求して実直に試作を繰り返すなかで生まれたデザインは、既存のかたちとは一線を画し、後に新たなスタンダードとなったものもある。その彼が「ニューノーマル」をタイトルに掲げて展覧会を行うと言われたら、興味を持たずにはいられない。グルチッチの目に映っている未来とはどのようなものなのだろうか。
小さな違和感が、いつしかノーマルとなる
会場のハウス・アム・ヴァルトゼーは、1922年に建てられた邸宅と、湖に面した広々とした庭を生かしたミュージアムだ。2005年からは、ベルリンに拠点を置くアーティストや、建築家、デザイナーや音楽家を招待し、展示を企画。これまでにオラファー・エリアソン、タシタ・ディーン、カタリーナ・グロッセ、ティノ・セーガル、ヴェルナー・アイスリンガー、ザウアーブルッフ+ハットンなどが新作を発表している。
入口から足を踏み入れると、まず床や壁に固定された手すりに自転車用のチェーンロックで結び付けられた屋外用チェアが目に入る。ベルリンでは盗難防止のためかテラス席の家具にチェーンを付けている飲食店をしばしば見かけるのだが、それを思い起こさせるインスタレーションだ。グルチッチは本来の機能とは違う使い方をされているモノに注目する。
「最初はあれ?と違和感を感じたものが、そこらじゅうで見かけるようになって、いつしか私たちはそれをノーマルなのだととらえるようになる」と、グルチッチは言う。