『バンクシー 壁に隠れた男の正体』(PARCO出版)
今年5月に医療従事者を称賛する新作を公開、6月にはジョージ・フロイド殺害事件に関連した新作を発表するなど、2020年も多くの情勢にいち早く反応して作品を残したバンクシー。いまや大人から子供までが知ることになったアーティストだが、その正体は未だ謎につつまれている。
本書の著者は、イギリスの『サンデー・タイムス』紙のニューヨーク特派員であるとともに、『テレグラフ』紙、『インディペンデント』紙、『サガ』紙の折込雑誌でシニア編集員を務めるウィル・エルスワース=ジョーンズ。
緻密な取材をもとに、バンクシーが「バンクシー」になる以前の生い立ちや、作品にステンシルを用いる理由、バンクシー作品を取り巻くマーケット、そしてバンクシー作品の公式認証組織「ペスト・コントロール」まで、様々な角度からバンクシーとその作品を追う。
来夏には寺田倉庫G1ビルを会場で「バンクシーって誰?展」の開催も予定されており、来年も引き続き注目を集めそうなバンクシーの正体に、少しでも近づけそうな1冊。
『バンクシー 壁に隠れた男の正体』
ウィル・エルスワース=ジョーンズ=著
「バンクシー 壁に隠れた男の正体」翻訳チーム=訳
PARCO出版|2000円+税
『かわいい江戸の絵画史』(エクスナレッジ)
江戸時代は、多くの個性的な画家が切磋琢磨し、そして「かわいい」美術が花開いた時代。ゆるくてかわいい子犬、意表を突くユーモラスな虎、なぜかかわいいおじさんなど、さまざまな「かわいい」が描かれてきた。
本書は、そうした「かわいい」ものから江戸の美術を見渡し、画家の技術やアイディアが浮かび上がらせる一冊だ。
単純化とデフォルメで「かわいい」を描く俵屋宗達や伊藤若冲。拙い描写が「かわいい」を生む与謝蕪村、「かわいい」題材をリアルに再現した円山応挙や歌川国芳、「ゆるさ」で心を和ませる長沢蘆雪などを、豊富な図版と詳細な解説テキストで紹介。
著者は、府中市美術館で「かわいい江戸絵画」(2013)、「動物絵画の250年」(2015)、「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」(2019)といった展覧会を手がけてきた同館学芸員の金子信久。どのページをめくっても、江戸時代の「かわいい」絵画が目を楽しませてくれる1冊だ。
『かわいい江戸の絵画史』
金子信久=著
エクスナレッジ|1800円+税
『アンディ・ウォーホルをさがせ!』(宝島社)
ポップ・アートの巨匠として、20世紀の美術史に名を残すアンディ・ウォーホル。キャンベル・スープやコカ・コーラといった資本主義社会の象徴的なイメージをシルクスクリーンで色彩処理した作品や、マリリン・モンローの死と同年にモンローを描いた肖像画は、誰もが知る作品だ。
本書は、あの有名なボーダーの服を着た男性を探す絵本の主役を、ウォーホルに置き換えた1冊だ。ウォーホルが紛れ込むのは、バウハウスの廊下、システィーナ礼拝堂、スタジオ54など、美術史を彩る12のアートシーン。
作中にはそれぞれの時代を彩った著名な芸術家や音楽家の姿も登場し、楽しくウォーホルを探しながらも、壮大な美術史に残る数々の名場面に触れることができる。
アートへの造詣が深い人は思わずにやりと、そうでない人はより深い美術への入口にと、幅広い人々が楽しめるはずだ。
『アンディ・ウォーホルをさがせ!』
キャサリン・イングラム=著
アンドリュー・レイ =絵
渡邊真里=訳
宝島社|1500円+税
『ゴッホ 最後の3年』(花伝社)
作品のみならず、燃え尽きるような生き方まで含めて、多くの日本人に愛されてきた画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。その死去するまでの3年間を描いたグラフィックノベルが『ゴッホ 最後の3年』だ。
南フランスに移住してから死去するまでの3年間に、ゴッホは《ひまわり》《星月夜》《夜のカフェテラス》といった誰もが知る傑作を世に送り出した。
病に苦しみながらも、日本の色彩美を自分のものにするという希望を胸に、最後まで創作に向き合い続けた晩年のゴッホ。その姿をやわらかい線画で描きながらも、作中のセリフは弟のテオと交わした実際の手紙からとられ、実際の絵画作品も多数登場するなど、史実を映し出している。
同書は、オランダ・アムステルダムのゴッホ美術館の依頼により、3年をかけて制作された。ゴッホの生涯の締めくくりを知るだけでなく、著名な作品にまつわるサイドストーリーも知ることができる著作となっている。
『ゴッホ 最後の3年』
バーバラ・ストック=著
川野夏実=訳
花伝社|2000円+税
『スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン』(美術出版社)
人工の太陽を掲げ霧を発生させる《ウェザー・プロジェクト》(2003)などで世界的に知られるアーティスト、オラファー・エリアソン。今年は10年ぶりの大規模個展「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」が東京都現代美術館で開催され、注目を集めたことも記憶に新しい。
オラファーのベルリンのスタジオでは、旬の食材を使った美味しいベジタリアンレシピが日々、共同のキッチンから生まれている。スタジオのスタッフたちは毎日全員で昼食をともにし、クリエティブなプロセスに必要なエネルギーを補給しているのだ。そのにぎやかなキッチンの様子や、目にも鮮やかなベジタリアンレシピを紹介した料理書の日本語版が本書だ。
家庭でつくれる100のレシピのほか、大人数のための食事づくりのアイディアも紹介。自宅で過ごす人も多い今年のホリデーシーズンは、スタジオオラファーのレシピに挑戦し、食卓を彩ってみてはいかがだろうか。
『スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン』
水原文=訳
岩間朝子=翻訳協力
美術出版社|5200円+税