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ARでのアート鑑賞は実物に匹敵する? 米スタートアップが研究結果を発表

AR(拡張現実)技術などを利用したソリューションを美術館に提供する「Cuseum」社が、ARを使って自宅で名画を楽しめる「Museum From Home」サービスを公開した。それに合わせCuseumが発表したデジタルアート鑑賞に関する研究結果が、これまでの常識を覆す興味深い内容となっている。

文=國上直子

レオナルド・ダ・ヴィンチ《白貂を抱く貴婦人》をARで鑑賞 Courtesy of Cuseum

ARでダ・ヴィンチやムンクの作品を

 ボストンのスタートアップ「Cuseum」社がこのたびリリースした「Museum From Home」。同サービスは、「[AR]T Museum」というiPhoneアプリから利用可能で、ユーザーが作品を選択し、壁をスキャンすると、壁の上に作品が浮かびあがるというもの。現在ムンクの《叫び》やゴッホの《星月夜》などをはじめとする、有名絵画58点が揃っている。本サービスでは、メトロポリタン美術館、ルーブル美術館、ゲティ財団、シカゴ美術館、アムステルダム国立美術館などが「オープン・アクセス」イニシアティブの一環で公開しているパブリック・ドメインの画像を活用しており、作品のラインアップは今後増えていく予定だという。

エドヴァルド・ムンク《叫び》をARで鑑賞 Courtesy of Cuseum

 すでにCuseumのソリューションを活用し、来館者向けにスマートフォンアプリの提供を行ってきた美術館は、「Museum From Home」の機能を新たなモジュールとして既存のインターフェースに追加可能。所蔵作品の画像を設定するだけで、美術館のアプリ利用者にAR鑑賞体験をすみやかに提供できる流れとなる。

 「パンデミックの影響で、世界中の美術館が閉館するなか、遠隔でアートや文化を楽しむ方法が、いま強く求められています。自分の大好きなアート作品が、快適なリビングで鑑賞できることを想像してみてください。実際に、それが実現できたことを喜ばしく思っています」とCuseumのCEOブレンダン・シエコはいう。

アートの実物鑑賞とデジタル鑑賞に差は?

 また「Museum From Home」のリリースにあわせ、Cuseumは興味深い研究結果を発表した。この研究は、作品の実物を鑑賞する場合と、AR・VRなどデジタル形態で鑑賞する場合で、神経学的にどのような差がでるのかを検証したもの。神経科学研究の世界的権威として知られる、マサチューセッツ工科大学のパワン・シンハの監修のもと、研究者たちとチームを組み、10ヶ月にわたる検証と分析を行ったという。

 実験には、作品の実物、AR、VR、2D写真という4つの異なる形態を用意し、鑑賞者の脳波や記憶にどのような反応の違いが出るのかを調べたという。美術のバックグラウンドがない9名の被験者が集まり、鑑賞モード毎にランダムに選ばれた絵を1分間ずつ鑑賞。その間脳波の測定が行われた。さらに、ひとつの作品の鑑賞が終わるごとに、いま見た作品を詳しく説明するよう求められた。そして1週間後改めて、それぞれの作品をどの程度覚えているかヒアリングが行われた。

脳波モニターをつけVR鑑賞を行う様子 Courtesy of Cuseum

 脳波の分析結果を総合すると、VR・AR鑑賞においては、実物鑑賞に匹敵する、神経的な刺激が得られていることが観測された。短期記憶の検証においては、2D写真での鑑賞がもっとも劣る以外は、他のモード間で大きな差は見られなかった。しかし長期記憶になると、VRと2D写真が同点最下位だったいっぽうで、実物とARの間では、ARでの鑑賞の方が、記憶が鮮明に残っていたことが確認されたという。

 ヴァルター・ベンヤミンは1936年の「複製技術時代の芸術作品」のなかで、「複製技術のすすんだ時代のなかでほろびてゆくものは作品のもつアウラである」(「複製技術の時代における芸術作品」、高木久雄・高原宏平訳、『複製技術時代の芸術』、晶文社)と述べた。「今回の研究結果は、おそらくベンヤミンが見たら反発するだろうものではあるが、当時と比較して大幅にテクノロジーが進化し、アートにおけるデジタル体験が向上したことを示すとともに、デジタル・インターフェースが美術を愛する人々の鑑賞体験を拡張する可能性を示唆している」と研究レポートは結んでいる。

 デジタル鑑賞が脳にどのように作用するかについては、これからさらなる研究が進むことが期待されるが、コロナウイルスの蔓延をきっかけに、作品鑑賞の形態が大きく変わるかもしれないいま、大変興味深い提議がされた。

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