EXHIBITIONS

遠藤利克

2022.03.08 - 05.14

遠藤利克 Allegory V-Lead Coffin II 2017 Photo by Toshikatsu Endo

 彫刻家の遠藤利克が、SCAI THE BATHHOUSEでは7年ぶりとなる個展を開催する。

 遠藤は1950年岐阜県生まれ。埼玉を拠点に活動。70年代より焼成した木、水、土、金属などを用い、「円環」「空洞性」といった造形を核とする作品を発表してきた。遠藤の取り組みは「ポストもの派」と称されたがその枠を超え、人間の根源を追求した物質感あるダイナミックな彫刻作品により、国内外で高く評価されている。

 本展では、木や鏡を使用した彫刻と平面作品で構成された、重厚な空間を展開。黒く炭化した柩の形状をした立体、そしてそれに対峙する壁面に掲げられた鉛の「空体」が中心となる。

 遠藤の制作プロセスにおいてしばしば「燃やす」という行為がとられ、柩(ひつぎ)の形状をした作品《空洞説ー鏡像の柩》も焼成されることによって作品が完結している。本作の素材には「木、鏡、(火)」と表記されているが、見た目には黒い柩があるのみで、鏡の存在はどこにも見て取ることができない。どこかに使用されているはずの鏡は、タイトル、そして素材表示のみによって限定的に示されるだけで、具体的にどのように使われ、どのような構造を成しているかは、すべて見る者の想像力の内にゆだねられている。

 柩や鏡はともに、遠藤作品のなかに繰り返し出てくる非常に重要なイメージだ。空の柩の提示する空洞とは何もないのではなく中心となり得る場、共同体の中心を指し示す場所だと言う。ここでの共同体とは、言語を、あるいは共同幻想を前提として成り立つ集団のことを指している。

 また遠藤には、精神分析学者ジャック・ラカンの唱えた鏡像段階論をそのまま引用した「鏡像段階説」というタイトルのシリーズ作品があるように、作家にとって鏡とは表現も主張もしておらず、ただ映し出すだけのものであり、人間にとっての現象世界が、現実と想像世界のあいだの共同幻想的現象性であること示している。

 あえて展覧会のタイトルをつけず、作家名だけを冠した本展。先入観なく展示と向き合う鑑賞者は、遠藤の作品から無限の言葉を読み取ることができるだろう。