EXHIBITIONS

第一回ふげん社写真賞グランプリ受賞記念

木原千裕写真展 いくつかある光の

© Chihiro Kihara

© Chihiro Kihara

© Chihiro Kihara

© Chihiro Kihara

 第一回ふげん社写真賞グランプリ受賞作家、木原千裕の個展「いくつかある光の」がコミュニケーションギャラリーふげん社で開催される。

 木原は1985年福岡県生まれ。同志社大学社会学部教育文化学科を卒業後、独学で写真を学び、写真家として活動。これまで、第23回写真「1_WALL」グランプリ(2021)、塩竈フォトフェスティバル写真賞特別賞(2018)を受賞している。2021年に開催された第一回「ふげん社写真賞」では、172名の応募者からグランプリに選ばれ、写真集『いくつかある光の』が出版される。

 本展では、グランプリ受賞作「いくつかある光の」から38点のプリントを展示する。本作は、たった4度だけ会った東北の海沿いの街に暮らす人を被写体にしたシリーズ。木原は、2017年冬から2019年春にかけて、自身が住まう福岡からその人が生活する石巻へ計4回、撮影のために赴いた。赤の他人でもなく、友達とも言えない曖昧な関係で撮影された写真は、2人の生活圏をつなぐ飛行機や空港などの風景から始まり、その小さな街にそびえる煙突、季節によって表情を変える小高い山、いちご農場を舞台に、被写体の表情が瑞々しく切り取られている。

 木原には、セクシャルマイノリティを理由に恋人との関係を相手の親族から反対された過去がある。家族や恋人、友達という特別な関係ではない他者をテーマにした「いくつかある光の」シリーズは、人生における無数の出会いと別れの連続のなかで、一瞬自身と交わった存在を肯定し、あるがままを受け入れることができるのか、という試みでもある。

 また木原は、パンデミックによって人と人との分断がさらに進む現在において、どこかで生きる誰かの人生を想像することこそが、豊かな世界、未来の希望へと繋がっていくと考えたと言う。自身を否定された経験を経てもなお、他者を肯定し、愛を携えて歩むことを選んだ木原の作品は、どこかで誰かのひとすじの光=希望となるかもしれない。

 なお本展の会期中には、ふげん社写真賞選考員の飯沢耕太郎(写真評論家)、町口覚(造本家)を招いたトークイベントも行う。