EXHIBITIONS

project N 85 水戸部七絵

水戸部七絵 Baron Pierre de Coubertin 2021 Photo by Atsushi Yoshimine

水戸部七絵 Picture Diary 20210814 2021 Photo by Atsushi Yoshimine

水戸部七絵 I choose to do more. 2021 Photo by Atsushi Yoshimine

 東京オペラシティ アートギャラリーの「project N」は、同館コレクションの中心作家である難波田龍起(1905〜97)の遺志を受け継ぎ、若手作家の育成・支援を目的として、4階コリドールで開催している展覧会シリーズ。85回目となる今回は、絵具を大胆に積層させた、立体のような質感をもつ作品を手がける水戸部七絵の作品を展示する。

 水戸部は1988年神奈川県生まれ。2011年名古屋造形大学造形学部造形学科洋画コース卒業。現在、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画に在籍し、アーティスト活動を行う。これまで東京や愛知での個展開催や、「高橋コレクション|顔と抽象―清春白樺美術館コレクションとともに」(清春白樺美術館、山梨、2018)、「Inside the Collector's Vault, vol.1 - 解き放たれたコレクション展」(WHAT MUSEUM、東京、2020)ほか展覧会への参加をかさね、21年にはVOCA奨励賞を受賞し、さらなる活躍が注目される。

 時に人力では持ち上げられないほど、厚塗りを特徴のひとつとする水戸部の絵画には、顔のモチーフが登場してきた。映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』に感動と衝撃を受けたことをきっかけに制作し始めた作品シリーズ以降も、顔にまつわる思索を深め、人間の変身願望から人種差別や人が他者から受ける身体的、社会的あるいは、政治的な影響にまで考察を広げている。

 これまで、マイケル・ジャクソンやデイヴィッド・ボウイ、ドナルド・トランプらを題材としてきた水戸部だが、その視線はスターたちの華麗さではなく、称賛と批判にさらされる個人としての人格に向けられ、描かれる絵画にはスターたちへの共感や哀れみが込められている。

 水戸部は本展に「I am a not Object」というタイトルを用意した。セクシャルハラスメントやLGBTQへの偏見に抗議する言葉からとられ、そこには差別や偏見なく、他者という存在をそのまま受け入れる作家の制作姿勢が表れている。

 本展では、コロナ禍で制作された新シリーズ「Picture Diary」を中心に発表。絵日記のような作品は、バンクシーやバスキアなどに関するニュースの見出しや、SNSで見たアフガニスタンの少女の悲痛なメッセージといった、自身の目と心にふれた日々の出来事を取り上げている。