EXHIBITIONS

浅見貴子「未然の決断」

浅見貴子 transform 2108 2021 横須賀美術館「ビジュツカンノススメ」出展作品

浅見貴子 gray net 211001 2021

 麻紙に墨や顔料でダイナミックな自然の姿を描く画家・浅見貴子。その個展「未然の決断」がアートフロントギャラリーで開催される。

 浅見は1964年埼玉県生まれ。88年多摩美術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。作家のアトリエ兼自宅である日本家屋の庭には、松、梅、柿、花蘇芳などが植えられており、これらの季節ごとの異なる樹々の表情をモチーフとして、紙の裏から墨を表に滲ませる独特の技法で作品を描いてきた。越前製の和紙を使用し、滲みをコントロールして描く技法は、浅見が大学卒業後のある日、滲み止めのどうさ引きに失敗した経験から着想を得たもの。浅見独自の技法と作品は、現代の水墨画のひとつの在り方と位置づけられ、2018年には、第7回東山魁夷記念日経日本画大賞展大賞を受賞した。

 その後の浅見の制作は展開を繰り返し、紙の裏面を使って筆を転がすようにして点をうち、線でつなぐ技法に至った。最近では畑の脇の、宿り木のある梅の木に注目し、川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉、2018)、中村屋サロン美術館(東京、2020〜21)での個展や横須賀美術館での企画展で発表している。

 浅見は身近にある樹木の移ろい、その周囲に醸される光や空気を丹念に追ういっぽうで、新たな場所にモチーフを見出すこともあると言う。例えば日光の外資系ホテルのために敷地内の樅の木をスケッチし、異なる植生での枝ぶりを障壁画のようなフォーマットに落とし込んだ大型作品は、L字型に囲む立体感を持たせ、訪れる人々を周辺の自然景へと誘っている。

 本展は、17年の「彼方 / 此方」展以来、アートフロントギャラリーでは4年ぶりの個展。梅や松、錦木など、多様な樹木を描いた大小様々な作品が一堂に集う。また前回の個展でも発表され、いま新たな展開を見せている「gray net」シリーズなども展示し、浅見の進む方向を紹介する。