EXHIBITIONS

⼀歩離れて / A STEP AWAY FROM THEM

ギャラリー無量
2021.10.02 - 10.25

キービジュアル

渋⾕剛史 払腰 2021

髙橋銑 二羽のウサギ 2020

松元悠 碑をキザむ(黒鳥山公園) 2020

三枝愛 禹歩 2020

 松江李穂(埼⽟県⽴近代美術館学芸員)によるキュレーション展「⼀歩離れて / A STEP AWAY FROM THEM」が、富⼭県砺波市のギャラリー無量で開催される。本展は、2019年度にギャラリー無量が主催した「キュレーション公募 2020」で採⽤された企画案をもとに、渋⾕剛史、髙橋銑、松元悠、三枝愛の4人を出展作家に迎える。

 本展覧会のタイトル「⼀歩離れて / A STEP AWAY FROM THEM」は、冷戦時代のアメリカの詩⼈フランク・オハラ(1926〜1966)が、1956年に書いた同名の詩のタイトルから引⽤している。この詩のなかでは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のアシスタント・キュレーターであったオハラが昼⾷をとるためにニューヨークの街中へと繰り出し、束の間の遊歩の時間、職場に戻ってくるまでに⾒かけた⼈やもの、出来事の取り留めのない様⼦が、タイトル通り⼀歩離れた距離から連続的に記述されている。本展では、このオハラの詩をひとつの起点として、歴史の歩みに対する個別的かつ私的な歩みに注⽬する。

 本展参加作家の渋⾕剛史、髙橋銑、松元悠、三枝愛は、それぞれの個⼈的な経験に基づいて、過去・現在・未来の時制の中にある、残ってきたこと/ 残すこと/ 残らないことにそのことに向き合いながら作品制作を行ってきた。

 柔道の武道型を用いて映像作品を制作してきた渋⾕は、⾃⾝の曾祖⽗が関わったというダム建設をめぐるしがらみや、難聴者だった祖⽗の過去へ、⾃⾝に深く関わってきた柔道や補聴器を媒介にして歩み寄る。三枝は、東⽇本⼤震災で起こった椎茸農家を営む実家の庭の変化を契機に、ものや⼈とのあいだの時間を越えた物語や関係の修復と延命の⼿⽴てを模索し続けてきた。本展では、関東⼤震災時に起こった事件や富⼭県を発端とした⽶騒動に⾃⾝をトレースすることで、⼤道のような歴史のなかに、交差点やわき道を見出そうとする。

 また、実際に起こった事件や出来事をモチーフにリトグラフ作品の制作を⾏う松元は、フィクションや想像を挟みながら自身の姿で当事者像を描く。マスメディアに翻弄されることへの⾃⼰批判的な態度でありながらも、自らも簡単に消費され、忘却される他者について語る⽅法を模索する。髙橋は、⾃⼰のアイデンティティに関係する⾝近な存在を探りながら、いかにして私的な問題を世界の問題に語り変えうるのかを観照してきた。本展では、誰か、そして自分自身のかたちを留めたまま、それでもともに残り続けることのせめぎ合いを描く。

 本展では、4人の制作に向き合う態度を「歩き方」になぞらえて、些細なものを振るい落として進んでゆく歴史や、⾼速で移り変わっていく世界そのものに対して⼀歩距離を置きながら、それぞれの速度と⽅法で向き合い歩んでゆく、作家たちの実践的な態度を⾒つめる。

 本展キュレーターの松江李穂は、1994年⻘森県⽣まれ。現在、東京藝術⼤学⼤学院国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻に在籍するとともに、埼⽟県⽴近代美術館の臨時的任⽤学芸員として勤務。2021年に共同企画に携わった「Welcome, Stranger, to This Place」(東京藝術⼤学構内 陳列館、2021)では、フィリピン、中国、ロシア、サウジアラビア、そして⽇本など多様な⽂化的背景を持つ学⽣たちとともに展覧会キュレーションし、⾃分の知らない場所の記憶や物語に向き合う⽅法を模索した。