EXHIBITIONS

髙畠依子「MARS」

2020.10.24 - 11.28

髙畠依子 MARS 2020 ©︎ Yoriko TAKABATAKE Courtesy of ShugoArts

髙畠依子 MARS 2020(部分) ©︎ Yoriko TAKABATAKE Courtesy of ShugoArts

髙畠依子 MARS 2020(部分) ©︎ Yoriko TAKABATAKE Courtesy of ShugoArts

 絵具を糸のように垂らして重ね描くペインター・髙畠依子の個展がシュウゴアーツで開催される。

 髙畠は1982年福岡県生まれ。2008年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。「変幻自在のマテリアルである絵具と、無限の織り構造をもつキャンバス。この2つをどのようにかけ合わせ、ひとつの絵画をつくり出せるか」という考えのもと、大学院在学時代に織物の構造から着想し、細く絞り出した油絵具の線を用いた絵画の制作を開始。その後はさらに、「風」や水圧で絵具を吹き飛ばすといった物理的な力や動きを取り入れた制作手法を生み出す。

 髙畠の作品はしばしば物質の現象を絵画表現として成立させるための仮説に基づいた実験を経て制作されるため、科学的・工学的なアプローチと評されてきた。18年の個展「泉」では、「水」による作品の発表を行った後、翌年にソウルにて「火」による熱の変成作用を用いて制作されたシリーズを披露。観察を通して絵具の未知なる特性を追求する行為を制作の基盤に据えるいっぽう、理系的アプローチだけを拠り所とするのではなく、水を創造の源泉、熱を生命の誕生ととらえるなど芸術家としての豊かな感性が、制作技術や科学的事物のたんなる援用に陥らない深みを作品に与えている。

 本展では、「磁力」への考察をもとに手がけた新たなシリーズ「MARS」を発表。「火」の制作を行った際に、焼け焦げて炭化した絵具をみて触発されたという新シリーズには、酸化鉄からなる黒色顔料のマルスブラックと強力な磁力が用いられており、キャンバスに絞り出された絵具の線が磁場に接して変容・結晶化したかたちが、強固な画面を表している。

 地表の岩石や砂に酸化鉄を多く含む惑星「MARS(火星)」になぞらえて題されたタイトルの通り、表層からその内奥へ迫る意欲的な作品群となる。