EXHIBITIONS

没後50年

神田日勝 大地への筆触

ここで描く、ここで生きる

2020.09.19 - 11.08

神田日勝 馬(絶筆・未完)(部分) 1970 神田日勝記念美術館蔵

 北海道の開拓民として、農業に従事しながら絵を描き続けた画家・神田日勝。その没後50年にあたる2020年に、故郷で大規模な回顧展が開催されている。

 神田日勝は1937(昭和12)年東京都生まれ。日勝が7歳のとき、一家は戦火を逃れ、拓北農兵隊に応募して北海道に渡った。荒れ果てた土地を開墾する苦しい生活を送り、後に東京藝術大学に進む兄の一明の影響で油絵を描き始めると、日勝は絵画にのめり込んでいった。そして中学を卒業すると、日勝は農業を続けながら絵を描く道を選んだ。

 平原社展、全道展といった北海道内の展覧会が主な発表の場に、日勝の作品は徐々に高い評価を得るようになり、1964年の東京オリンピックの年には独立展に初入選。この頃から日勝の芸術は、色彩が豊かになり、荒々しい筆触が取り入れられるなど、同時代美術の影響も取り込みながら、大きな変貌を遂げた。70年に世間が大阪万博で盛り上がっていた頃、しかし日勝は、農作業、制作、展覧会の準備などに忙殺されるなかで体調を崩し、最後の作品を完成させないまま、32歳の若さで亡くなった。

 愛情をこめて育てた馬を病気で死なせてしまったという、少年時代の記憶が色濃く影を落とす《死馬》。労働者としての自分と、画家としての自分を重ね合わせた《一人》。画業と農業との両立で、つねに葛藤を抱えていた日勝の内面の不安を垣間見せる《室内風景》。

 40年ぶりの本格的な回顧展となる本展は、日勝の代表作を網羅し、芸術の全体像に迫るもの。労働者や廃棄物をモチーフにした、暗いモノトーンによる社会派リアリズムから、農村生活、農耕馬や牛を緻密な描写で表現した時期を経て、色とかたちへの関心を深め、カラフルな色彩と明瞭な形態が躍動する大画面作品、そして原点に回帰したような最晩年の丹念な描写までをたどる。

 また最新の研究成果を反映した、新しい日勝像を提示。デッサン帳や蔵書などの資料に基づく情報や、日勝に強い影響を与えた同時代の作家たちによる作品をあわせて展示することで、これまで「農民画家」という括りで語られることの多かった日勝の、新たな一面に焦点を当てる。