キム・テクサン「時の皮膚」

　キム・テクサン（金澤相）は1958年韓国ソウル市生まれ。85年中央大学美術学部を卒業し、87年弘益大学大学院美術研究科修士課程を修了。韓国内外で作品を発表し、中国やドイツ、インドネシア、アルゼンチンを巡回した「Empty Fullness」展での出品はじめ、韓国抽象絵画を代表する作家のひとりだ。

　70年代の韓国で活発化し、近年、日本の「具体」や「もの派」とともに国際的に大きな注目を集める「単色画（Dansaekhwa）」。90年代に作品の発表を開始した世代には欧米での留学経験を持つ作家も多く、モノクローム絵画も素材や技法において多様な展開を示した。キムはこうした同世代の作家との交流を通し、韓国人作家としてのアイデンティティを探るとともに、自らの思想を深め、作品のオリジナリティを確立すべく模索してきた。

　キムは制作において、筆やペインティング・ナイフ、パレットではなく、特別な長方形のプールを使用。そこにキャンバスを浸し、自然界に存在する色に近いアクリル絵具を溶かした水を注いでいく。注がれた水はその痕跡をキャンバスに残しながらゆっくり蒸発し、季節や気候に応じて、様々な模様を浮かび上がらせる。一連の工程が繰り返され、キャンバスに色の層が幾重にも重なってやがて作品となる。

　時間をかけてゆっくり制作され、樹木の年輪と同様の時の流れを感じさせるキムの作品。本展では、より一層淡くデリケートな色彩を湛えた作品を中心に展示する。