EXHIBITIONS

ミルチャ・カントル

あなたの存在に対する形容詞

ミルチャ・カントル The landscape is changing 2003 Courtesy of the artist and Magazzino, Rome

ミルチャ・カントル Give more sky to the flags 2016 Courtesy of the artist and VNH Gallery, Fondation Francès, Dvir Gallery

ミルチャ・カントル Rosace 2007 Courtesy of the artist and Dvir Gallery, Tel Aviv

ミルチャ・カントル Deeparture 2005 Courtesy of the artist

ミルチャ・カントル Tracking Happiness 2009 Sound: Adrian Gagiu Courtesy of the artist, Magazzino, Rome and Dvir Gallery, Brussels/Tel Aviv

ミルチャ・カントル Chaplet 2007 Courtesy of the artist

 パリを拠点に活動するアーティスト、ミルチャ・カントルの日本初個展が開催される。

 日常の世界がいかに複雑で不確かなものかを控えめな身ぶりで気づかせる写真や彫刻、映像、インスタレーションなどを手がけてきたカントルは、アルバニアの首都ティラナでスローガンの代わりに大きな鏡を掲げて練り歩く様子を映像に収めた《The landscape is changing》(2003)や、狼と鹿がギャラリー内で出合う様子を映像に記録した《Deeparture》(2005)などで国際的な注目を集めるようになる。

 日本では「ヨコハマトリエンナーレ2011」や「いちはらアート×ミックス2014」などに参加。純白のドレスをまとった美しい少女たちが、ゆったりとしたリズムで足元の白い砂を箒で払ってゆく儀式のような動作が繰り返される映像作品《Tracking Happiness》(2009)のほか、指紋によって描かれた有刺鉄線を思わせるドローイング《Chaplet》(2007)や空き缶でつくられたバラ窓のような彫刻《Rosace》(2007)を発表し、簡素な素材やミニマルな身ぶりから、ミクロとマクロのレベルで行き来する様々な問いを浮かび上がらせた。

 本展は、銀座メゾンエルメスのガラスブロックの「透明性」に着想を得た新作を展示。東京のあらゆるロケーションで人々が透明なプラカードを持って行進する様子を撮影した《The landscape is changing》に連なる映像作品では、「透明な主張」を掲げる群集が東京の日常のなかに詩的な瞬間を呼び起こし、また数十本ものアルミニウムの鐘とガラスの屏風を組み合わせたインスタレーションでは、静寂や響きあう鐘の音が一陣の風のように、目には見えない記憶や感情の波動を生み出す。こうしたカントルの作品は、規則や慣習、権力など、透明なものの力によって無意識に縛られる「あなた」を形容する言葉をシンプルに問い、不確かな世界のなかで個人の存在を成り立たせる地平について投げかける。