EXHIBITIONS

小野博「正しさの場所」

2024.08.09 - 09.14

《スリーマイル島原子力発電所》《チェルノブイリ原子力発電所》《福島第一原子力発電所》〈正しさの場所〉シリーズより
2020〜2024 archival pigment print 297 × 210 mm each ©︎ Hiroshi Ono, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

 KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYで、小野博による個展「正しさの場所」が開催されている。

 小野博はアムステルダム在住の写真家。1冊目の著書『ライン・オン・ジ・アース』(エディマン刊、2007)では、世界50ヶ国を巡り、例えばアフガニスタン国境の塀を越えたときの衝撃的な風景や(国境を少しでも開けてしまうと移民希望者が雪崩れ込んでしまうため、ビザを保有していても塀を登るように指示された)、内戦中のベオグラードのレストランの様子(ハイパーインフレのため30分毎に価格が書きかえられ、オーダー時に払わない場合は食後にいくらになっているかわからない)、ルワンダ大虐殺の現場で生存者と談笑する様子など(たくさんの白骨の前で「足が速かったから生き延びられた」と笑いながら生存者に語られた)、切れ切れに寸断された世界の地表を「地球の線」として一本の線でつなぎ、世界中のディストピアと言われる国の暮らしを写真と言葉で綴った。

 2冊目に上梓した『世界は小さな祝祭であふれている』(モ・クシュラ刊、2012)では、オランダと日本の風景を同じ希望の地平で映し出しながら、東京特有の息苦しさに煩悶する日々のエッセイと、国籍問わず多様な背景を持つ人々を許容するアムステルダムをユーモラスな眼差しで綴り、オランダと日本の文化的な差異のみならず、人間に通底する大切なものを浮かび上がらせている。

 本展で発表する新作《正しさの場所》では、小野が約5年間かけて撮影した世界中の景色を、静謐な目線で俯瞰。世界中で正義がふりかざされ、重層的な分断が深刻化し、過去の絶望の記憶も忘れられ、衝突や息苦しさが加速度をあげて駆け巡っているかのような「いま」を、独自のまっすぐな目線でフラットに世界を並列させる。

 混迷を深めるいまだからこそ、人間が種の生存のために編み出された概念とも言われる「正しさ」をいま一度みつめなおす本展に足を運んでみてほしい。