EXHIBITIONS

αMプロジェクト2023–2024「開発の再開発」vol. 6 片山真妃|αMと遠近法

2024.06.29 - 09.07

片山真妃 F15M15若草肌色オリーブ納戸色 2024 キャンバスに油彩、鋲 65.2 × 53 cm、65.2 × 45.5 cm 

 gallery αMで「αMプロジェクト2023–2024『開発の再開発』vol. 6 片山真妃|αMと遠近法」が開催される。

 片山真妃は1982年東京都生まれ。同地在住。2006年多摩美術大学油画科卒業。

 本展に寄せて、ゲストキュレーターである、美術家・美術批評家の石川卓磨は次のように述べている。

「近年、片山の作品で使用される4色の配色は、洋画家・和田三造(1883〜1967)が編纂した『配色事典——大正・昭和の色彩ノート』(2010)——1933〜34年に発行された『配色總鑑』の復刻本——の配色見本をもとにしている。和田の配色の研究は、美術のみならず、デザインやファッションなどの生活や産業での活用を前提としていた。つまり、当時の日本の生活様式を考慮し、風土を反映した日本のローカル・カラー(地方色)を探究したのである。このバナキュラーな感性は、萌木色、納戸色、檜皮色、梅鼠色、蒸栗色など、自然や風土に結びついた色名に明瞭に表れている。配色には時代性が反映されるため、これらのバナキュラーな感覚は現代と同様のものではない。片山は、インクで紙に印刷された配色見本を見ながら、絵の具の混色によって再現を行う。黒色であっても、原色ではなく調合によってつくられている。片山の絵画が特異な色彩の印象を与えるのは、このプロセスがひとつの要因になっているからだろう。

 片山は、『配色事典』の色名を見ていると、構造主義を代表する人類学者 クロード・レヴィ゠ストロースが『野生の思考』(1962)で指摘した、琉球列島の住民やアメリカのネイティブアメリカンが持っている植物に対する豊富な知識と語彙を想起すると話してくれた。この指摘は、彼女の作家性において本質的な必然性を持っているように思われる。

 構造主義は、二項対立を中心にした比較方法論を基礎としている。レヴィ゠ストロースは、この二項対立による分類と体系化の方法を、言語学者ロマーン・ヤーコブソンから学んだ。ヤーコブソンは音韻論の研究を専門としており、言語の音を二つの対立する特徴——代表的な対立に無声音と有声音がある——にもとづいて分類し体系化した。彼の音韻論の研究には、ロシア未来派の詩人たちやカジミール・マレーヴィチとの交流が大きく影響している——つまり、音韻論と抽象絵画の成立には相関性がある。

 和田の配色理論も色彩を二項対立的な性格——同色調と異色調、透明色と不透明色、暖色と寒色など——から分類し、パターンをつくり出した。片山は、この配色見本の体系性を、絵画のシステムへと展開している。ディプティク(二連画)的形式、配色とコンポジション、形態の反復などは、二項対立的に比較と相対化を織りなす運動を生成している。彼女の絵画では、全ての要素・部分が孤立することなく、ほかの要素・部分と関係づけられており、造形言語のネットワークを構築している。片山が行うデカルコマニー的操作を、レヴィ゠ストロースに倣って、2つの社会集団間で行われる交換のメタファーとして検討することも可能だろう。

 ところで、今回の展覧会では、『遠近法』という制度の使用が打ち出されている。橋爪大三郎は、遠近法に代表されるものの見方の崩壊の過程で、〈構造〉として対象をとらえる発想が現れてくると指摘し、遠近法と構造主義を連続的なものとして論じている。片山の作品において遠近法は、一枚の絵画内で展開されるのではなく、一連の絵画が壁に展示され、斜めから見るときに生まれる展示空間の奥行きそのものに関わる。遠近法とは特定の場所に視点を固定し、視る主体を確立する制度だが、彼女の遠近法では、視点の意識を部分(一枚)と全体(展示空間)へと二重化し、複数の場所へと主体を相対化する。片山の開発の再開発は、抽象絵画において、人類学あるいは構造主義的方法によって行われるのだ」(展覧会ウェブサイトより)。