EXHIBITIONS

井津建郎作品展「BLUE」

2023.11.22 - 2024.01.13
 PGIで、二回目となる井津建郎の作品展「BLUE」が開催されている。

 井津は約40年にわたり、祈りや人間の尊厳をテーマに、世界の石像遺跡などの聖地やそこに生きる人々を14×20インチの超大型カメラで撮影してきた。

 本展「BLUE」は、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』によって陰影のうちに美を見出す日本人の美的感覚に気付かされた井津が、自らのアイデンティティを再認識し、撮影を始めたシリーズだ。舞踏ダンサーをモデルに存在を表現した「Body」と、静物や、枯れた草花に美を見出した「Still Life」から構成された作品は、作者が敬愛するピカソの「青の時代」(1901年〜1904年)へのオマージュとして、その100年後の2001年から2004年に制作された。14×20インチの大型カメラで撮影したネガからプラチナプリントを制作し、その上にサイアノタイプの感光剤塗布と露光を数回繰り返すことにより、プラチナによる精緻な描写とサイアノによる深みのある青と独特の質感が現れ、気品に溢れた静けさを漂わせている。

 本展に際し、井津は以下のステートメントを発表している。

「『陰翳礼讃』は学生時代に日本で読んだが、当時それほど感じるところが無かったのが、数十年後アメリカで友人から贈られた英語版を読んで感銘を受けた。おそらくその頃、作品制作や生活の折々に、陰影に美を見ている自身に気づき、日本人としてのアイデンティティを意識し始めたことも大きな要素だと思う。改めて日本語版を取り寄せて読み、そこに日本の美学の一端を見た。

『掻き寄せて結べば柴の庵なり、解くればもとの野原なりけり』と言う古歌にあるように『東洋人はなんでも無い所に陰影を生じせしめて、美を創造する』ようである。そして『美は物体にあるのではなく、物体と物体の作り出す陰影のあや、明暗にあると考える』と谷崎は言う。

 ある夜更けにふと目を覚まして入った居間、月の光を浴びて青く輝く花瓶のある空間は、日常の我が家の居間とは異なる、気配に満ちた空間であった。それは、チベット寺院の仄暗い本堂の奥深く安置され、かろうじて鈍く金色の光を放つ仏像の周りに漂う濃い陰影と、そこから忍び寄る緊張感、そして千年以上のあいだ、祈りを受け続けた聖なる山を包む、あの濃密な空間の陰影とも相通ずる気配であった。光と影が、その境界を失う一瞬、確かと思った存在さえも闇のなかへ溶け去り、その気配だけが残る」。